第3話 桃太郎は愛されたい


俺の名前はシバ・ライコウ、毛並みが艷やかな黒色をしていて、まだ身体はほんの少しだけ小さいが素早く動けるところから、巷では黒い電光と呼ばれている。


「シバ〜、何処〜?」


俺には2つ足の相棒がいる。

少しだけ頼りないが、優しい2つ足の雌だ。


名前はモモという。

正確に言えば、モモの前になんかついてたはずだが、めんどくさいし長いから俺はモモと呼んでいる。


こいつの良いところは優しいところと頭の賢いところだけど、唯一の欠点と言えば、俺みたいに四つ足で立たないところだ。

おかげで一緒に歩いていても遅くてかなわない。


あぁ。あと一つ文句を言えば、頭は賢いのに俺の話す言葉を理解しないところだな。


俺が譲ってモモの言葉を理解してやっているから上手く相棒として付き合ってやれているんだ。


まぁ、モモの言うとおりに座ったり、お互いの前足を触ったら、頭や身体を撫でてくれて、それがやたらと気持ち良いので許してやっているけどな。


「あぁ〜!シバ、こんな所にいたんだ?何して遊んでいたの?」


俺はいつもどおり威厳と獰猛さに満ちた声で、


「わん《自己紹介の練習だ》。」


と応えると、


「あたしを探していて迷子になっていたんだ。ごめんね!そんなに寂しい声で泣かないで〜」


やはり、モモには俺の言葉が通じないな。


相棒が間違えたときはちゃんと伝えないとな。

俺はモモの足元に近づき両方の前足をあげ、


「わん《違うぞ》」


と威厳と峻烈さに満ちた声で言うと、


「抱っこしてもらいたいんだね。シバは甘えん坊さんだね。」


そう言って、俺を抱きかかえる。

う〜ん。違うのだが、まぁ楽だから良いか。


モモは俺を抱きかかえたまま、自分のテリトリーに連れて行き、俺を下に降ろすと、


「私の宿題が終わったら、散歩に連れて行ってあげるから、ちょっと待っていてね。」


俺がモモの言葉に頷き、


「わん《しょうがない待っていてやる》。」


威厳と大らかさに満ちた声で応える。するとモモは、


「早くしてって、やっぱり、シバは甘えん坊さんだね。」



俺の頭をしばらく撫でて、


「ハッ!いけない早く宿題しなくちゃ!」


と我にかえり、モモは素早く椅子に座り、前足で何かを持ちごちゃごちゃと始める。


モモは集中力があるので、俺はまだしばらくはかかるなと思い、その場で丸くなり欠伸をして昼寝を始める。


俺がウトウトとしていると、


「やっと終わった〜!」


モモが俺の方を向き近づいて俺の顔を覗き込む。


「シバはお昼寝してたの?私の邪魔をしないように静かにしてくれていたのね?ありがとう。」


そう言って、俺の頭や身体を撫でる。


「わん《きのうあまり寝てなかったからな》」


威厳と獰猛さに満ちた声で応えると、


「そんな悲しそうな声で鳴いて、寂しかったんだね。大丈夫、宿題はちゃんと全部終わったから今からはシバと遊べるからね!」


モモはそう言って、俺を抱きかかえて、俺達が住んでいる小屋(モモ達は家と言っていた。)の出入り口まで連れてきた。


俺はモモの腕から飛び出し、モモが俺の首輪に付けているいつもの紐を咥えてモモの足元に置く。


「シバ、リードを取ってくれたの?ありがとう!」


「わん《まぁ、これぐらいはな》」


そう威厳と果断さに満ちた声で言って、モモが俺の首輪に紐を付けやすように首筋を見せる。


モモはパチっと紐をつけると、俺は動く壁(モモは扉と呼んでいた。)の前に座り、モモを見る。


「わん《さぁ、いこうぜ》」


威厳と清廉さに満ちた声で鳴くと、


「もう、シバったら!嬉しそうな声を出して、そんなに待ち切れないの?」


やはり、モモには俺の言葉は通じないな。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


俺とモモはいつも通る道を歩く。

この辺りは俺の縄張りだと主張する輩が多く、毎回通るたびに匂いを上書きしておかないといけない。

これは俺の縄張り意識とか自己主張が激しいというわけではない。

もう本能なのだ。


俺が本能に従って匂いを付けても、モモが後から水をかけて匂いを消してしまうからあまり意味がないのだが。


「わん《できれば匂いを消さないでほしい》」


威厳と達観に満ちた声でモモにそう話しかけても、


「シバ、そんなにお礼を言わなくてもいいよ。」


そう言って、にへらと嬉しそうに笑うモモに俺は何も言えないのだ。



「ねえ、シバ、最近、学校の先輩が優しいの。これってさ。私に気があるのかな?」


そうモモが俺に話しかけるが、2つ足の奴らは雄も雌も年中発情期だからな。正直よく分からない。

だが、相棒が悩んでいそうだから何らかの回答はしないとな。


「わん《モモはそいつのことをどう思っているんだ?》」


俺は威厳と雄大さに満ち声で問いかける。


「シバ、そんなに心配そうな声で鳴かないで大丈夫だよ。私は彼氏ができてもシバを一人にしないからね。」


でも、とモモは続け、


鬼山おにやま先輩は私に優しくしてくれるんだよ。」


そんな話をしながら歩いていると前からモモの仲間がぼんやりとした顔をしながら歩いてきた。


木島きじまさん、こんな所で会えるなんてラッキーだね!」


モモが嬉しそうに手を振る。

こちらに向かって歩いてきた2つ足の雌は木島サール《きじまさある》、2つ足の中ではモモの一番の仲間だ。


そして、サールは俺の言葉をなんとなく理解できるのか、俺とは少し気が合う。


「モモ、学校ぶり。シバも元気そう。」


「わん《何回か寝た前に会ったな》」


俺は威厳と正確性に溢れた声でサールに声をかけた。


「シバ、3日前の夕方に会った時よりも毛並みが良くなっている。


モモは嬉しそうに、


「へへへ、昨日、シバと一緒にお風呂に入ってシャンプーしたんだぁ。」


と答えた。


「モモはこれからシバの散歩?」


サールが尋ねると、


「そうだよ。木島さんも一緒に行く?」


モモが尋ねるとサールは、


「良いね。ついて行く。」


と俺の頭を撫でる。


「わん《やれやれ。子守は大変だが、一人も二人も変わらんからな。》」


俺は威厳と諦観に満ちた声で答えた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


俺達は再び散歩道を歩き始める。

すると前から見知らぬ2つ足の雄がこちらに近づいてくる。


「やぁ!櫻澤さくらざわさんと木島さん。偶然だね。」


2つ足の雄は、白い歯を剥き出し、笑顔を見せつけながらこちらに近づいてくる。


俺の鋭い嗅覚はこの雄の身体から複数の2つ足の雌の匂いを嗅ぎ取る。


どうやらこの雄は本能に従って行動しているらしいな。


四つ足の俺には本能に従ってもあまり問題はないが、俺の周囲の2つ足は決まったつがいでしか側においてはいけないはずだがな?


「わん《気をつけろモモ、サール。こいつはお前達を狙っているぞ》」


俺は威厳と規律に満ち溢れた声で注意を喚起する。


「やぁ、可愛いワンちゃんだね《なんだ。このうるさい毛玉は》」


2つ足の雄は俺の頭を撫でようとこちらに近づいてくるが、俺は奴の手を軽やかに躱し、


「わん《おいおい。本音が漏れているぜ》」


俺が威厳と冗談に満ち溢れた声でからかうと、2つ足の雄は少し苛立ちを隠せなかったのか、少し乱暴な言葉遣いで、


「櫻澤さんの飼い犬かい?ちょっと煩くないかな?」


とモモに言っている。

モモは足元にいる俺を後ろから抱きかかえ、


「鬼山先輩、普段はこの子、人には吠えないんですけど、この子が吠えた時はあたしを守ろうとしているんですよね。」


サールが俺の頭を撫でて、


「そう。シバはウソは言わない。それにシバはこう見えて黒い電光と呼んでもいいくらい早く動けるから気をつけた方が良い。」


モモとサールの2人に睨まれて、鬼山先輩と呼ばれた2つ足の雄は、


「ハハッ、今日は何だか嫌われているみたいだね。」


と引き攣った笑顔を浮かべ、逃げるようにして帰っていった。


モモは俺の目を見て、


「鬼山先輩、普段は優しくしてくれていたのに、シバを見る目が凄く汚いものを見るような目で嫌だった。さっきまでは少し良いなって思っていたんだけど。シバを嫌がるような人は幻滅する。何処かにシバと私を好きになってくれる人はいないかなぁ。」


俺は威厳と誠実さを込めて、


「わん《まぁ、そんなに気を落とすな。モモには俺がついている。モモの2つ足の番が見つかるまでは側にいて面倒をみるさ。》」


と声をかけると、サールが、


「シバはいい奴。モモとシバを好きな人はここにいるよ。」


と俺の頭を撫でながら、サールは自分を指差す。


「木島さんは女の子でしょ!私が言っているのは男の子でってこと!」


俺はモモに抱きかかえられながら、空を見る。


「わん《今日も良い天気だ。》」


俺の威厳と充実感に溢れた声が辺りに響いているような気がした。

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眠り姫は夢をみない。 鍛冶屋 優雨 @sasuke008

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