生き別れの姉にタイムマシンで会いに行く

小阪ノリタカ

第1話 制限時間


現在、高校二年生の小野田おのだ 柚木乃ゆきのは、生まれてすぐに離れ離れになった姉のことを、ずっと知らないまま育った。

祖母はあまり語りたがらず、手掛かりはアルバムに挟まった、柚木乃が赤ちゃんの頃に撮られたツーショットだけ。


ある日の放課後、柚木乃は理科準備室で、不思議な装置を見つける。くたびれた白衣を着た物理教師・森下が言う。

「これは実験用で試しに私が開発した『時間跳躍装置』だ。まあ、いわゆる『タイムマシン』ってヤツだな。本来、生徒には安全の保証が出来んから使わせられんが……どうしても行きたいと言うのなら、使わせてあげる。…ただし、安全面での都合上タイムマシンが使える(過去・未来へ行ける)時間は15分間だ。」


柚木乃は迷わなかった。だって、ずっと会えなかった、生き別れのお姉さんに会えるかもしれないから。

柚木乃はタイムマシンの中に入り、モニターに「15年前、姉と離れ離れになった日の駅前ロータリー」と入力する。


次の瞬間、周りの空気が震え、世界の色が少し変わる。辿り着いた場所は一昔前の駅前ロータリー。その真ん中にそびえる大木たいぼくの下に、女の子が古びたキャリーバッグを握りしめ、背中を丸めて立っている。

「……お姉ちゃん…ですか?未来から会いに来ました!歳の離れたあなたの妹です!」

柚木乃はおそるおそる、その女の子に声をかけた。

女の子は突然の声掛けに驚き、涙をこらえながらも笑う。

「えっ?誰?……あぁ、言われてみれば確かに、私に雰囲気がちょっと似ているわね」


生き別れのお姉さんと話せる時間は15分しかない。名前も、これからどうなるかも、全部話したかったが、言葉の選択次第で未来を壊してしまうかもしれないという恐怖が柚木乃を襲った。

いろいろと話す代わりに、ポケットの中の小さな折り鶴をお姉さんに手渡す。

「私が作ったお守りです。なにか困ったことがあったとき、これを見て、私を思い出してください。」


バスが到着し、お姉さんは振り返りながら、柚木乃に向かって大きく手を振った。


「……バイバイ!私の妹。いつかまた会おうね!」



光が収まり、気がつくと、柚木乃は理科室に戻っていた。

「……お姉さんには会えたか?」と物理教師・森下が聞く。

柚木乃は「うん」とうなづき、ふと制服の胸ポケットに手をやると、そこには折り鶴と同じ色の紙に包まれた短い手紙が入っていた。


『あの時に、君からもらったお守り、まだ大切に持ってるよ。いつかまた、どこかで会おうね。—お姉ちゃんより』


時間を越えた、長いようで短い15分が、確かにつないだあかしだった。




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生き別れの姉にタイムマシンで会いに行く 小阪ノリタカ @noritaka1103

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