第34話 やっぱ楽しいね
半年後。
無事戴冠式も終え、すべての業務を貴族院に引き継いだサレジナは、駅舎にいた。春の風はまだ冷たく、それでいてなんか鼻がむずむずする。
でっかいくしゃみをしていると、いつの間にか現れたラコナンナが「風邪ですか? 姉上」とたずねてくる。
「ちょっと鼻がむずむずしただけだ」
鼻の下をごしごししながら、サレジナはラコナンナの衣装をまじまじと見つめる。
「なんだ、その格好は」
ラコナンナは白いレースのワンピースに、鍔広の帽子。ヒールの高い靴に日傘を手にしていた。
首からはゴールドのネックレス。指にはじゃらじゃらと宝石の嵌った指輪。
「ラコ、われわれはこれから魔物の討伐に向かうのだが」
「はい。専用の駅馬車がくるのですよね」
「専用のは来ない。ただの予約便。で、おぬし、武器は持ってきているのか?」
「はい。スーツケースの中に」
ラコナンナは背後に積み上げられた五つの巨大な旅行バッグをしめした。そのそばには、ラコナンナつきの美形の騎士二人が、しゃっちょこばって立っている。
おそらくは荷物運び役。
「目的地は分かっているのか?」
「はい。もちろん。北方のアハルト山嶺ですよね」
「いまの季節だと、まだ雪が残ってるが」
「ええ」
まじめな顔でラコナンナはうなずく。
「ご安心を姉上。荷物の中には毛皮のコートもシロクマのブーツも入っております」
貧乏の期間が長すぎたせいか、いまや王族となったラコナンナはすっかり成金趣味に走ってしまっていた。特に最近の金銭感覚のズレと浪費趣味はいかんともしがたい。
「ヤミヒはどうした?」
サレジナはため息まじりに尋ねる。
「あいつはここ半年、部屋に引きこもったまま出てきてませんよ。高価な魔導書を与えたのが良くなかったなぁー」
「ヤミヒは魔導書を読むと眠くなるんじゃなかったのか?」
「いやなんか、ひとつ分かると芋づる式につぎつぎ分かるらしくて、いまは謎解きが面白くて仕方ないって言ってる。あとなんか、文字列を見ていると、それが浮き上がってみえるとかの与太話もしてますね」
「子供が読書にハマるみたいなもんか?」
サレジナは肩をすくめた。
「じゃあ今回の討伐は、二人だけか」
あえて、おつきの美形騎士は数に入れない。
「いえ、二人じゃこころもとないんで、もう一人呼んであります」
ラコナンナは駅舎の入口を指差す。いまちょうど、三人目の参加者が到着したところだった。
「お二人ともお久しぶり」
にやにや笑いながら軽い調子で手を上げて入ってきたのは、居合のおっさん。結婚式に行くような真っ白い燕尾服を着て、そこに刀を差している。ここにもう一人、勘違いメンバーが。
「お二人とも、お元気でした?」
「ああ、元気だ」
サレジナは憮然と口を尖らせた。
「その格好でいくのか?」
「ええ、もちろん」
大きめの革鞄を足元に置いたおっさんは、ラコナンナの方を眩しげに見つめる。
「姫様らしくなってきましたな」
「ちょっと調子に乗りすぎだ」
サレジナはぼそりとぶやく。
「しかし、あの白いドレス。よくお似合いだ」
「これから雪山に行くのだが」
「白いドレスは雪山ではこれ以上にない迷彩となります。分かっていてやっているとしたら、彼女、只者ではありません」
「んなわけあるか」
サレジナは思わず吹き出した。
「ときに、おっさん氏。聖剣は出来たのか?」
「いえ。実はやっと気づいたのですが、わたしの師匠が打ったこの刀。いろいろ計測してみたのですが、どうやらオリハルコンよりもヒヒイロカネで作った方が高い性能を発揮するようなのです。わたしはてっきり、師匠が材料をケチってヒヒイロカネで作ったのかと思っていたのですが、どうもわざとヒヒイロカネを選択したようなのです」
「そういうことか」
サレジナは苦笑する。
ヒヒイロカネはこの辺りではアハルト山脈でしか手に入らない。
「ラコナンナのやつ、それを餌に……」
「おー、おっさん久しぶり」
ラコナンナが手を振りながらこちらにやってくる。
「荷物それだけ? うちの騎士に運ばせるから任しといてよ。姉上、馬車が来たみたいよ。なんであんなでっかい馬車予約したの? 経費の無駄だよ。こっちの騎士二人は自前の馬でついてくるから乗らないのに」
「お前の荷物が多いことを見越した上での選択だ。ただ現実がわたしの予想の遥か上を行っていただけ」
サレジナは背中のドラゴンブラスターを背負い直す。
「では、行こうか。さくっと魔物を退治して帰るぞ。いろいろと忙しいんだから」
「いやー、にしても」
ラコナンナが、サレジナとおっさんを見上げてにかっと笑った。
「やっぱ冒険の旅は、楽しいね!」
〈完〉 また、どこかでお会いしましょう
異世界居合のおっさん、全部斬る! 雲江斬太 @zannta
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