怖い話『JR豊里駅』

犬河内ねむ(旧:寝る犬)

みどりの窓口であった不思議な出来事

掲示板「オカルト板」に投稿されたスレッド:

みどりの窓口であった不思議な出来事Part.1

1:>>1 投稿日時:2025年8月5日 22:19 JST


 俺、千葉駅のみどりの窓口で働いてんだけど、去年の10月にすげえ変な体験したから書き込むわ。

 ちょっと長くなるけど、付き合ってくれ。


 その日、夕方くらいで窓口はガラガラだった。

 秋の陽が落ちて、ホームも静かでさ。

 時刻表眺めてぼーっとしてたから、男が目の前に立つまで気づかなかった。

 灰色のコート着た男で、40代くらいかな。

 目が窪んでて、なんか仕事に疲れてるか、ヤクでもやってんじゃねーかって感じだった。


「富里駅まで。片道」


 男の声が低くて、妙に急いでる。

 俺、首かしげたわけ。

 鉄には周知の事実なんだけど、千葉県の富里市には駅ねえのよ。

 端末で検索しても、当然ヒットなし。


「あの、富里駅ってどこらへんですか?」


 路線図広げて聞いたら、男は迷わず、富里市を指さした。


「ここだ。富里市役所のちょっと北」


 けど、男が指す場所にはそもそも路線がない。


「このあたりだと、総武本線で成田駅からバスに乗り換えるのがおすすめです。そっちでいいですか?」

 一応そう言って提案したら、男は、目泳がせて、唇かんでた。


「仕方ない。成田でいい」


 なんか切羽詰まった声でさ。

 俺、料金伝えたわけ。

 男が一万円札出してきたんだけど……手に取った瞬間、なんでかゾワッとした。

 紙幣の色がくすんでて、日本銀行BANK OF JAPANって文字の下に「万和まんな7年」って年号らしきものが書いてあったんだわ。


「万和?」


 思わず呟いて顔を上げたら、男がマジいらついた顔で睨んできた。


「何だ?」


「いや、この紙幣、ちょっと変で……」


 キャッシャーに通したら、もちろんエラーで戻ってくる。

 何回やってもダメで、男に「別の紙幣でお願いできます?」って言ったんだ。

 そしたら財布から同じ「万和7年」の千円札と五千円札まで出て来た。


「これしかない……頼む、これで切符を売ってくれ」


 声めっちゃ震えてた。

 なんかヤバい雰囲気で、俺、駅長呼んだんだ。

 駅長が即座に警察に連絡して、男は偽札使用の疑いで連行された。

 名前は「胡座木あぐらぎ」って名乗ったらしい。

 取り調べで、刑事に変な話したって後で聞いた。


2:2ゲット! 投稿日時:2025年8月5日 22:23 JST


 おもしれー!

 その偽札って肖像画とか誰だった?


3:>>1 投稿日時:2025年8月5日 22:37 JST


 万札が明治天皇だったのは覚えてる。

 5千円と千円はひげの生えた男の顔だった。


4:ななしさん 投稿日時:2025年8月5日 22:40 JST


 明治天皇はさすがにすぐわかるだろ!


5:ななしさん 投稿日時:2025年8月5日 22:42 JST


 で? その後どうなった?


6:>>1 投稿日時:2025年8月6日 07:32 JST


 すまん寝てしまった。

 ここからは、後で刑事さんに事情徴収されたときに聞いた話しなんで、おかしいところあるかもしれない。


「私のいたところは…ここじゃないんだ。町の看板も、駅の位置も、なんか違う。紙幣も…私の世界じゃ、2019年に万和って元号になったんだ! 当たり前のことで。小学生でも知ってる!」


 刑事は、大きくため息をついて身を乗り出す。


「ふざけんな、偽札の出どころ言えや」


 鼻で笑って詰め寄ったらしい。

 それでも胡座木あぐらぎって男は首振っただけ。


「すごく似てるけど、ここじゃないとこから来た。自分でもよくわからないんだ」


 って繰り返しつづける。

 そんで、その夜、留置所に置かれることになったんだけど、真夜中に、魔法みたいにパッと消えたんだって。

 監視カメラに何も映らず、鍵のかかった独房は無傷。

 証拠品として取り上げられていた「万和7年」の紙幣が数枚、日本のもののはずだが、互換性のないICチップの埋め込まれた免許証なんかが、ポツンと残されてたって。

 数日後、俺も一応参考人って言うの? 呼ばれて話聞かれたんだけどさ。

 例の紙幣見せられた。

 触らせてもらえなかったけど、素材がなんかプラスチックみたいで、印刷の線の太さも、現行のより恐ろしく細い。

 鑑識の人が「偽札じゃないけど、現行技術じゃ作れない」って呟いてたのが耳に入った。


7:ななしさん 投稿日時:2025年8月6日 07:42 JST


 今北産業


8:ななしさん 投稿日時:2025年8月5日 08:49 JST


 偽札で

 存在しない駅の切符買って

 あぼーん


9:>>1 投稿日時:2025年8月6日 08:12 JST


 駅に戻って同僚に話したら、うわさ好きの同僚が、スマホ片手に近寄ってきた。


「富里駅って名前、昔のエイトライナー開発計画にあったらしいぞ。富里市に新駅作る案、資金でポシャったけど」


 って。

 なんかゾッとした。

 夜のホーム見ると、線路の先がやけに暗くてさ。

 今でもあの紙幣、警察の証拠保管庫にあるらしいよ。

 あの男、どこ行ったんだろうな。

 時々、窓口閉める時に、ホームの向こうで列車が来る音がする気がする。でも、振り返っても何もねえんだ。

 たださ、そんなときには風が妙に冷たくて、知らない場所の匂いがするんだよ。

 俺の知ってるのはこれだけ。


10:ななしさん 投稿日時:2025年8月5日 11:23 JST

 >>1乙。

 わりとおもろかったンゴねぇ。


11:ななしさん 投稿日時:2025年8月5日 11:32 JST

 行ってみてぇな。

 なにげに「きさらぎ駅」より場所の範囲せばまってるし、いけるんじゃね?


12:ななしさん 投稿日時:2025年8月5日 11:42 JST

 富里市にはJRどころか電車の路線も駅もなにもねぇんだよ! いいかげんにしろ!


13:ななしさん 投稿日時:2025年8月15日 00:00 JST


 すげえ話だな……鳥肌立ったw。

 実はさ、ちょっと前に似た話聞いたの思い出したんだわ。

 去年の9月頃、Xでバズったポストなんだけど、「寝過ごしたら知らない駅に着いた」ってやつ。

 写真にJRの看板あってさ、ピカピカで「富里駅」って書いてあったんだ。

 ホームが明るすぎて返って不気味だったよ。

 投稿者はその後、最寄り駅への道をXで聞いてたんだけど、駅出たところでポスト無くなったんだよな。

 垢ごと消えてさ。

 誰も連絡取れなくなったらしい。

 マジで何だったんだろうな、あれ。


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