心に届きますように~パワーストーンのお話~
影葉 柚希
「ラブラドライト(未来への轍)」
都会の路地裏にその店は存在している。
シックな建物は白と黒を基調としていて、それでいて派手めな装飾は施されてない建物。
一軒家のそれは路地裏の中では若干の存在感が強過ぎている感も否めなくない。
その店の名は【アリア~アナタに最適の石を届けます~】と看板に記されていたが、それを読むのには少々癖のある筆記体な為に読める人間はそういないだろうと思われる。
そのアリアの店に今日も一人、疲れ果てた顔の男性が訪れる……カランカランと音がして入店を知らせた。
「いらっしゃいませ。今宵はどのような石をお探しですか?」
「あの……ここは最適の石を届けますって事と書いてありましたが……私に最適な石を探してはもらえないでしょうか。私の心の力になる石があれば、との思いで参りました」
「はい、それではお客様の事を少しお話してもらってもよろしいでしょうか? こちらに記入してもらえれば最適な石をお探し致します」
店の中はとても石を扱っているとは思えない、こじんまりな空間が広がっているが、所々に温かい光を放つ石たちが使われているモチーフなどが飾られていた。
そのモチーフの中でカウンターになっている店内に一人の女性が立っていた……茶色の髪が肩にまで伸び、瞳は茶色で、顔は至って普通の顔立ちの女性店員がそこには立っている。
その女性店員に差し出された記入シート、それを受け取った客の男性は少し疲れ果てた顔をしている黒髪の七三分けで、クマも出来ているのもあって年齢は六十代を数えるかどうかの老け方をしている男性であった。
男性はカウンターの前にあるソファー席に座って簡単な質問事項を埋めていく。
「これでよろしいですか?」
「はい、それではストーンマイスターのマスターをお呼びしますので少々お待ち下さい」
「マイスター……?」
男性から受け取った質問票を持って女性店員は店の奥に続く通路に入って行く。
男性は落ち着かない様子でキョロキョロとしていたが、数分後――
「お待たせいたしました」
「あ、お願いします!」
「私はこのアリアの店のストーンマイスターの
美祢子はチャイナドレス姿で現れて、男性の質問表を片手に厳選した石を置く部屋に案内していく。男性はその美祢子の美しさにも心惹かれる事もない程に疲れているのか、美祢子の後を黙って着いて歩いていく。
暫くして、最初のフロントルームから離れた男性が訪れたのはサブルームで。扉を開けるとそこには壁一面に石たちが収納されており、圧迫感よりも美しさが際立っていた。
「ここが石との出逢いをもたらす部屋、通称【出逢いの部屋】でございます。ここでお客様の心に必要な石と出逢える為の部屋です」
「私の心に必要な石とはどのような石なのでしょうか……?」
「お客様の今現在お抱えになっている心は「不安や恐れ」でございますが、それを払拭し、より輝きの未来を手に入れる為の力にする事が出来る為の石……こちらになります」
美祢子が男性をある石の前に案内すると一冊の本を取り出す。その本の表紙にはこう記されている。
「ラブラドライト~未来への
青色と黄色と緑色が混ざり合った色彩を放ち、形は四角を保っているが基本的な形とは色々とあるのだと美祢子が説明を付け足す。
男性はそのラブラドライトを見て震える手を伸ばして、ラブラドライトの本をそっと受け取ると輝きを放つその美しさに男性は、そっと涙が溢れて落ちていく。
「この……石なら、私の不安と恐れを振り払ってくれるのですか??」
「ラブラドライトは不安や恐れを払拭して日々努力を重ね、輝かしい未来を手に入れます。だからこそ、お客様の願いを叶えるのには最適な石だと思います」
「この、この石はどれだけのお金を詰めば譲ってもらえますか??」
「それではこちらの条件を見てもらえますか? それに応じて価格交渉を致しましょう」
美祢子が取り出した条件表には以下の情報を書いていた。
・石の効果を感じれなかった場合はすぐに返品するように
・邪気が蓄積された場合はすぐに浄化の為に店に持ってくること
・石に変化があったら必ず自己流で浄化をするでなく店に持ち込むこと
・最期に……石は効果を達成した場合は月光浴をさせて月の力を宿すこと
これらを書かれている条件表を見た男性は深々と頷き会計の値段を求める。美祢子は金額を電卓を叩いて見せると男性は財布から諭吉を数枚取り出した。
会計トレーにお札を乗せながら美祢子は本を丁寧に抱き締める男性に一言告げる。
「お買い上げありがとうございます。それではお客様のお手元に渡しました石を大事にされて下さいませね? それではお気を付けてお帰り下さい」
「ありがとうございます!! あぁ、これで私は明日から勇気を持てるぞ……」
男性は本を大事に抱き締めて店を出て行く。美祢子はその姿を見送ってゆっくり歩いてフロントルームに戻れば女性店員に微笑みを浮かべていた。
女性店員は美祢子の様子に頷き、そして、お代を受け取りレジに入れてまたカウンターを綺麗に磨き上げていく。
美祢子は瞳を伏せて一人呟く、それは誰に当てた言葉か。
「アナタの心に届きますように――」
心に届きますように~パワーストーンのお話~ 影葉 柚希 @kageha_yuzuki
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