ピンク色の鍋
@jishuwu
短編一話
あらすじ
幼稚園のころ、中国の実家で見た光景。
二階の窓から覗いた先で、警察が鍋を運んでいた。
鍋の中は、淡いピンク色の“なにか”。
泣くこともできず、ただ見ていた。
二十五歳になった今でも、あの色だけは忘れられない。
本文
幼稚園のころの記憶なんて、普通はぼんやりしているはずなのに。
あの光景だけは、今でもはっきり覚えている。
場所は中国の実家。
二階の窓から、下の通路を見下ろしていた。
その通路の奥の一室で、たくさんの警察が集まっていた。
赤と青のパトランプの光が、壁や天井をちらちらと照らしていた。
私は泣いていなかった。
怖くもなかった。
ただ、「なんだろう」と思いながら覗き込んでいた。
警察のひとりが、鍋を抱えて出てきた。
鍋の中は、淡いピンク色のなにかで満たされていた。
ぐにゃぐにゃと揺れて、形がわからなかった。
そのとき、別の警察官がこちらを見上げた。
そして短く言った。
「……見るな」
私は窓から離れた。
それ以上、何も見なかった。
そして、それ以上、誰も何も言わなかった。
二十五歳になった今でも、その事件のことを調べても、何も出てこない。
本当に、あれはあったのだろうか。
夢だったのだろうか。
それとも——。
ピンク色の鍋 @jishuwu
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