エピローグ:遥かなる海へ

 俺は、リューベックの港に停泊する、一隻の船の船首に立っていた。

 青風商会が誇る、最新鋭の魔導蒸気船『海龍』。

 ボーデン湾を戦った『飛龍』よりも、さらに速く、さらに大きく、そして、より長距離の航海に耐えられるように設計された、俺の新しい愛船だ。

 その俺の隣には、潮風に栗色の髪をなびかせながら、生涯のパートナーとなった女性が立っている。

「準備はいい、クロエ?」

 俺の問いかけに、クロエは悪戯っぽく笑って答えた。

「もちろんよ、代表。それとも、そろそろ『あなた』って呼んだ方がいいかしら?」

「はは、好きに呼べばえい」

 俺たちは、これから新しい冒険に出発するところだった。

 議会政治が軌道に乗り、平和になったエルグランド王国。その先の未来。

 俺たちの目は、まだ見ぬ大陸との交易という、新たな夢に向けられていた。

 この世界の海図には、まだ多くの空白部分が残っている。その向こうに、どんな国が、どんな人々が、どんな文化があるのか。

 それを知りたい。彼らと出会い、話し、商売をし、友達になりたい。

 それは、坂本龍馬だった頃の俺が、心の底から望んでいたことだった。

「世界は、まだまだ広い。面白いことが、ようけ転がっちゅうぜよ」

 俺は、かつての自分と何も変わらない、少年のような笑顔で笑った。

 姉のカタリナも、アルベルトも、ハンスも、みんな、この国をしっかりと支えてくれている。だから、俺は安心して、自分の夢を追いかけることができる。

「出航!」

 俺が号令をかけると、『海龍』は高らかに汽笛を鳴らし、ゆっくりと港を離れていった。

 見送りに来てくれたカタリナや父上たちの姿が、だんだんと小さくなっていく。

 俺の魂は、時代と世界を超えて、常に新しい夜明けを求めている。

 停滞した世界を「洗濯」する役目は、もう終わった。

 これからは、新しい世界を「繋ぐ」役目だ。

 俺の、リョウ・フォン・クライネルトの、そして坂本龍馬の冒険は、まだ始まったばかり。

 遥かなる青い海の彼方へと、俺たちの船は、希望を乗せて進んでいく。

 物語はここで一旦、幕を閉じる。

 しかし、彼の航海が、これからも続いていくことを、この世界の誰もが知っている。

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近江屋で死んだはずの坂本龍馬、悪役令嬢の弟に転生してたので、姉の破滅フラグを叩き折りつつ、腐った世界を洗濯することにした。 藤宮かすみ @hujimiya_kasumi

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