第5話「それぞれの道へ」

【前回までのあらすじ】

石垣島での異変を受け、桐人は緋滅組への正式入隊を決意。しかし「吸血鬼を殺すな」という警告を受ける。これ以上殺せば桐人自身が吸血鬼に堕ちる危険性があった。さくらは熊本での修行を選択し、吸血鬼に堕ちない道を探ることに。スニク様も全盛期の力を取り戻すため熊本へ。それぞれが別々の道を歩み始める。

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数日後、石垣基地



俺は、東の空を見つめていた。ポケットから貝殻を取り出す。朝日にピンクの光がきらりと反射した。



「キリヒトさん、準備はイイですか?」



振り返ると、ダンさんが立っていた。



「ああ、大丈夫だ」



俺は支給された戦闘服に袖を通した。緋滅組の正式隊員として、初めての任務だ。



「コチラが、米軍のヒメツ組のメンバーです」



ダンの紹介で、二人の隊員が前に出る。



「Nice to meet you, Kirihito」



最初に握手を求めてきたのは、俺と同じくらいの年齢の女性だった。


ラベンダーブロンドの髪を短く切り、灰紫の瞳が印象的だ。



「ヴィオレットよ、よろしくね。あなたの青い光の剣の事は聞いてるわ。侍スタイルで戦うなんてかっこいいわね」



青い剣のことを知っているのか。俺はわざと少しおどけて



「俺は、女性の胸元をつい見てしまうんだ。気を悪くしないでくれ」



「あら、わたしがハイスクールに通っていた時は、学校中の男の子が私の胸やお尻を見てきたから、むしろ自然よ。気にすることはないわ」



(日本人とは感覚が違うのか? こういう軽口を叩ける方が今の俺にはありがたい)



次に紹介されたのは、褐色の肌をした大柄な男だった。



「トカラです。ニホンゴ、スコシだけ」



片言ながら日本語で話しかけてきた。



「おー、頼りにしてるぜ、トカラ!」



俺はその肩をバシバシと叩いた。



(こいつはパワータイプか。見た目通りなら、使いやすいだろう)


(そうだ。強ければいい。強さだけが、今の俺に必要なものだ)



「明日、京都からの応援が到着します」



ダンが言う。



俺は頷きながら、ポケットの貝殻に触れた。



(短毛丸……殺さずに止める方法を、見つけなければ)



*  *  *



同じ頃・熊本、水前寺館



朝靄の中、さくらは道場で一人、木刀を構えていた。



「はあっ!」



気合いと共に振り下ろされる木刀。長さは40センチ。光の剣と同じ長さだ。



何度も同じ動作を繰り返しながら、吉井の言葉を思い出していた。



『人間の負の感情もまた、力になる』



(でも、それに飲まれれば吸血鬼への道……)



「焦りは禁物じゃ」



いつの間にか、スニク様が道場の入り口に立っていた。



「光の剣を伸ばすには、吸血鬼を倒さねばならぬ。じゃが……」



「代償がある、ですね」



さくらは剣を収めながら答えた。


桐人の姿が脳裏に浮かぶ。


彼は既に、その境界線に近づいている。



「肉を断つことで、ある程度は抑えられる。じゃが完全ではない」



スニク様の声には、深い憂いが込められていた。



さくらは貝殻を取り出した。朝日を受けて青く輝く。



(桐人、無事でいて……)



*  *  *



某所・地下洞窟


闇の中、銀髪の男がと小さな少女が立っていた。



短毛丸は右腕を見つめていた。


腕には、赤黒い脈が浮かび上がっている。


始祖の右腕の力が、彼の体を侵食していく。



「痛みか……いや、違うな」



短毛丸は笑った。



「これは快楽だ」



手の中には、一つの貝殻があった。


ヤツシロガイ。桐人やさくらが持っているものの片割れ。



「お前は貝殻を三つに分けて、三人の絆を作ろうとした」


「だが、あいつらがした事は島を焼き尽くす事だった」



貝殻が赤く光る。



「だが、知らなかったんだろう。我もまた、その絆に繋がれることを」



右腕の脈動が強くなる。始祖の力が、彼の感情と共鳴していく。



短毛丸は洞窟の奥を見つめた。


赤い光が、洞窟とうつろな瞳をした少女を不気味に照らした。



*  *  *



水前寺館・客間


大宮秀豊は血盟院からの報告書に目を通していた。



「ふむ……七牙衆の動きが活発化しておるな」



特に気になるのは、各地で起きている小規模な失踪事件。


一つ一つは目立たないが、全体を見れば明らかに組織的だ。



「短毛丸一人の仕業ではあるまい」



窓の外を見つめながら呟く。



「血盟院の内部にも、何か動きがあるやもしれぬ」



*  *  *



沖縄本島・某所


吉井は月光の下、一人佇んでいた。



「始祖の右腕……片方は短毛丸が、もう片方は……」



彼の瞳に、一瞬、赤い光が宿った。すぐに消えたが。



「桐人君、君はどこまで耐えられるかな」



意味深な微笑みを浮かべる。



「人として戦い続けることの、その苦しみに」



*  *  *


ユリの家


ユリは父と向かい合って座っていた。



「聖痕の守護者として覚醒したんだね」



父の声は重い。



「桐人君の痛みを預かったか……」



「うん。でも、完全じゃない。いずれ桐人は、自分で向き合わなきゃいけない」



「それでいい。我々は支えるだけだ」



父は立ち上がった。



「東京でなにやら不穏な動きがある。桐人君たちの戦いは、これからが本番だ」



*  *  *




熊本と沖縄、遠く離れた二つの場所で、桐人とさくらは同じように夜空を見上げていた。



桐人は基地の屋上で、さくらは水前寺館の縁側で。



二人とも、手には貝殻を握っている。



「……っ!」



同時に、貝殻が強い光を放った。



ピンクと青、二つの光が、まるで呼応するように脈打つ。



(さくら……)



俺は貝殻を見つめた。ピンクの光が、まるでさくらがそこにいるかのような温もりを放っている。



離れていても、確かに感じる。お互いの存在を、そして決意を。



だが、その時……



貝殻の光に、一瞬、赤い光が混じった。



(なんだ?)



すぐに消えたが、確かに見えた。第三の光。不吉な、血のような赤。



(第二部・完)


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ここまでお読みいただきありがとうございます。


最大級の感謝をいたします。


カクヨムとしてはかなり重めの話になってしまいましたが、桐人はきっとこの試練を乗り越えてくれると思います。


第二部のラストは当初は違う形でした。AIに評価をさせると、『ウトちゃんを助けろ!!』と、Gemini君もChatGPT君も切れ気味に言ってきました。


それでも当初はこれはどうしても必要だから、と思っていたのですが、結局、AIの熱烈なウトちゃん愛に絆されてしまいました。


第三部は新しい仲間が加わって、また少し明るいトーンに戻ります。


投稿再開はカクヨムコン11が終わってからにしようと思っています。少し先になりますが、ご期待ください。


一旦、完結としておきますが、フォローはそのままお願いします。


カクヨムコン11には新作を投稿いたしますので、そちらもよかったらご覧ください。


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もし興味を抱いてくださった方がいらっしゃいましたら、作者のフォローをしていただけますと、新作の通知がされますので、よかったら作者のフォローをお願いします。

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【第ニ部完】師旅煩悩(しりょぼんのう) 〜女子の胸を見てしまう呪いを力に変え、瑠璃色の剣で吸血鬼を斬る〜 くりべ蓮 @taka69md

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