望郷とコンプレックス

 生活には困らないけれど何か充されない。そのような想いが育ちや関係の中で熟成され、望郷とコンプレックスへ変容していく。まちの風景は間違いなく暮らしていた人たちの心には残っていて、ニュータウンという完成されているはずの未完成の景観を、満たされているのに充たされていない心情と共に詠み上げられる、この連作。

 全体として緩やかな退廃を纏う作品が多く、【もうどうにでも〜】や【百均で〜】、【公園の〜】などには陰鬱とした作者様の心根が見える一方で【ファミレスの〜】や【海がある〜】の心象風景はとても叙情的で、その往来が心に響きました。

 特に最後の【ニュータウン〜】の作品が描く望郷は、諦念とも懐かしさとも取れるような、読者へ委ねる余白の美しい一首で、静かな余韻に浸ることができました。

 日曜日の朝に素敵な作品と巡り会えて良かったです。

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