46.ぜんぶ未来のせいだ


 村外れの丘の上は、焚き火の明かりも届かない闇に包まれていた。

 虫の音だけが微かに聞こえ、夜風が吹くとふわりと焚き火の匂いがした。

 夜の静けさが、世界を丸ごと包み込んでいるようだった。


 僕とカルナは小さな岩に腰を下ろし、空を見上げた。

 満天の星空が広がっている。


 さっきまでの宴会の喧騒が、まるで別世界の出来事のように思えた。


「……いいでしょ、ここ」

「ああ。風が心地よくて、何より人に気を遣わなくていいのが最高だ」

「あははっ、さすがに正直すぎるでしょ」


 カルナはもう、神殿騎士の顔をしていない。

 その声には「やっと解放された」という素の響きがあった。


 常に英雄扱いされるのも、そんなに良いものじゃないんだな。


「カルナはどこまで見えているの?」

「ほんの少しだよ。しかも、ちょっとしたきっかけですぐに変わってしまう」

「僕の……異能力インゲニウムのことは?」

「最初に会ったときから見えてた」


 彼はそう言って、僕の目をじっと見つめた。

 深く昏い青の瞳に、吸い込まれてしまいそうになる。


「僕は……神殿騎士になれる?」

「ん? なれるよ」

「そっか……、えぇっ!! なれるの!?」


 ものすごく重大なことを、さらりと言われた。

 驚いて目を丸くしていると、カルナはむしろ不思議そうな顔をしていた。


「なにをそんなに驚いてるんだい? 君には異能力インゲニウムがあるんだ。なれる未来はちゃんと存在するに決まってるだろ」

「なれる未来が……存在する?」

「そう。なれる未来。もちろん、なれない未来も存在する」

「……なんかズルくない? 当たっても当たらなくても文句が言えない占いみたい」

「さっきも言ったじゃないか。未来なんてものは『ちょっとしたきっかけですぐに変わってしまう』って」


 うん。言ってた。確かに言ってたけど、そういう意味だったのか。


 でも、『なれる未来は存在する』とカルナからお墨付きを貰えただけでも、すごく心が軽くなった気がする。


 カルナは空を見上げていた。

 星々の瞬きの先に、世界の未来を確かめるように。


「僕みたいな異能力インゲニウムでも?」

「見た目なんて些細なことさ。大切なのは神に仕える心と、人と世界を救いたいって気持ち」

「カルナ……」


 じんわりと目頭が熱くなってくる。

 カルナもエリシアもそうだったように、モンスターに変身するなんて異能力インゲニウムでも中央神殿は“人間”として受け入れてくれるのか。

 なんて器が大きい――、


「って、言いたいのは山々なんだけどねえ。頭の固いヤツってのはどこにでもいるんだよなあ。ホントにどうしようもないよね」

「ホント台無しだよ! 僕の感動を返して!!」

「それでも、君が神殿騎士になれる未来が存在するっていうのは事実だから」


 めずらしくカルナが真面目な顔をしている。

 だから僕も黙って耳を傾けた。


「ザンマは『人を守る側』の人間だ。強大なドラゴンに立ち向かった時点でね」

「……勝てなかったけどね」

「だから気持ちが大事なんだって。さっきも言っただろ?」

「言ってたけどっ!」


 そのすぐ後で『って、言いたいのは山々なんだけど』とか言うから、さっさと記憶から消してたよ。


「そういうヤツは遅かれ早かれ、こっちに来るもんさ」

「そうなの?」

「ああ。神殿騎士はいつだって人手不足だからね」

「そんな理由? なんかガッカリだよ」


 ふふっ、と二人で顔を見合わせて笑う。

 未来は決まっていないけど、カルナは僕が神殿騎士になれるって信じてくれているのが言葉の端々から伝わってくる。


 ――カルナが認めてくれた。


 それはとても大きな自信となって、これからの僕の、心の支えになっていく。


「さて、と。そろそろ広場に戻らないと、捜索隊を出されそうだな」


 カルナが立ち上がって言った。

 てっきりこのまま宿に帰るのかと思っていた僕は、無意識に呆れ声が出ていた。


「……まだ飲むの?」

「大人ってのは、こういう日は朝まで飲むのが礼儀なんだよ」

「大人って、もしかして頭わるい?」

「…………それは否定できないな」


 僕も大人になったら、カルナと一緒にお酒を飲むような未来もあるのだろうか。

 きっとその未来も存在はするんだろう。

 その未来を実現できるかどうか、は僕次第だ。


『お酒は楽しいんだよ』と笑っていたカルナの横顔を思い出す。


「なあ、ザンマ」

「なに?」

「神都で待ってるから」


 僕はその言葉に驚いて、「え?」とカルナの顔を見る。


「一緒に美味いお酒を飲もう」


 なんて魅力的な誘いだろう。

 僕はこれまでで一番大きな声で「うん!」と返事をした。


 胸の奥に、眩しいほどの灯りがともった。

 ひんやりとした夜風が肌を撫でても、灯りは少しも揺らがなかった。


 この灯りが僕の未来を、神殿騎士への道を照らすんだ。




      了


________

 本作はこれにて完結となります。

 なんとか講談社ラノベ文庫新人賞に間に合いました。

 つぎはカクヨムコンでお会いしましょう!


 

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【完結】👼ぜんぶ神さまのせいだ ~最弱スライムからはじまる神殿騎士への道、モンスターに変身できる能力がバレたら火あぶりにされちゃうってマジですか?~ 石矢天 @Ten_Ishiya

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