第23話 夢の中へ
浜辺でプルートゥの事を考えてぼんやりしていたら、突然海の中から潜水服姿の男達が現れる
「はっっ!?」
目が覚めた
まだ、夜明け前だ
茶の間には空になったカップ麺の容器と、泡盛の空瓶が転がり、佐伯二曹がだらし無くイビキをかいて寝ていた
「 …… 夢、か」
裸足のまま浜辺まで歩くと、夢の中でそうした様に座ってプルートゥの事を思い出す
あの日、僕等は確かに愛を確かめ合い、そして彼女には新しい命が宿ったと告げられた
それは間違いない2人の愛の結晶
なのに、下らない人間の欲望のせいで大切なものを全て失う事に為ってしまった
冬でも暖かい沖縄とは言え、夜明け前のこの時間の潮風は少し冷たく感じる
何か上に引っ掛ける物を取ってこようかと、家に振り返ったとき、微かに唄が聴こえた気がして、思わず海へ振り向いた
ザザン … ザアァ …
気のせいか ……
暫く動けなかった
もし気のせいで無かったら!
そう思うと、居ても立ってもいられなく為り、ザバザバと海の中へと歩み出す
Omnes in ーーーーー flavo vivーーーs
Submariーーーーs, submarinus flavusーーー♪
海中に顔を突っ込むと、微かに彼女の唄が聴こえる
始めて彼女を知る切っ掛けになったビートルズの " Yellow Submarine " をラテン語で唄った歌声だ
「プルートゥーーーッッ!!」
大声で叫んで、首元まで海に浸かるくらい迄進んだ時、突然海中に引きずり込まれる
「ガボッ!?」
和磨の叫び声で目覚めた佐伯は、ムクッと起き上がり、和磨が海中に沈むのを目撃して慌てた
「ヤバい!?まさか自殺しようとするなんてっ」
海までダッシュすると、勢いそのままダイブする
決して目を離すな、と東雲二尉から言い付けられて居たのに、うっかり酔い潰れてしまった
減俸処分よりも、鉄拳制裁が怖い
海中に引きずり込まれた和磨が瞑っていた目を開けると、目の前に夢にまで見た愛しい彼女の姿が在った
「カズマ♡」
「ぷるごぼぼばべ!?」
海中で、彼女の声はハッキリ聴き取れるのに、和磨が喋ろうとして思い切り水を飲んでしまう
「ぷはあっ!!」
慌てて海面に顔を出すと、プルートゥが抱き付き、キスしてきた
立ち泳ぎのまま、彼女を抱き締めて口付けを交わす
夢じゃ無いのか?
夢ならどうか覚めないで!?
愛しい彼女の暖かい温もりは、間違いない現実だ
あの時どうして居なくなったのか
あれからどうしていたのか
確かに撃たれた筈なのに
考えてみれば、ドラゴン(?)なんだから撃たれたくらいじゃ死なないのか?
聞きたい事はもう、どうでも良かった
彼女が今、ここに居てくれる
それだけで充分幸せだ
けど、何かがさっきから脚の周りに纏わりつく感触がある
海中に、小さな魚影がクルクルと和磨の周りを回って居た
ひょっ、と小さな黒い顔が海面に覗く
「えっ!?」
プルートゥを五回り程小さくした感じの漆黒の顔に、小さな角が生えていた
…… まさか?
「アトゥムス♡」
プルートゥが名前を教えてくれた
と言う事は、もしかして僕とプルートゥの子供?
海中に潜り、姿を確認すると、確かに小さなプルートゥだ
あ男の子だ、この子
堪らずギュッと抱き締めると、イヤイヤをしながら腕の中からすり抜けてしまう
ゴメンな、束縛されるのは嫌だよな
「和磨さあぁーーーん!ご無事ですかあぁーーっ!?」
いつの間にか、大分沖合いまで来てしまって居た
島の方から佐伯二曹が大声で追い掛けて来るのが見える
「おおーーーーい!!」
大きく手を振って応えると、プルートゥが背中に乗れ、と言って来た
「そうだな、帰ろうか」
「帰る、わたしの家♡」
そう言うと、プルートゥは島と反対方向に移動し始めた
「ええっ?プルートゥ、島はあっちだよ?」
「カズマ、わたしと一緒 ♡ この海全部2人の家♪」
そりゃスケールがデカい
何しろ陸地より海の方が広いからな!
それも良いか
そうして、自衛隊も世界も知らない家族だけの秘密の場所へと旅立つ事に、一切の迷いは無かった
大海原に朝陽が登る
海は広いな大きいな
歌は世界を救い、和磨の心も救ってくれた
〜完〜
闇より昏き龍の姫君 アガペエな呑兵衛 @ginnoji
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