#荒川 #謎の釣り人

@saikokuya

#荒川 #謎の釣り人

藪をかき分け、荒川の川沿いを歩く。


舗装された道を外れ、

膝まで草に埋もれながら河原を目指す。


誰にも知られていないような静かなポイントでルアーを投げると、

不思議と魚がよく反応する。


ある日、Xで見かけた一枚の投稿が気になった。


《#荒川 #ヤバい釣り場》


タグはそれだけ。


添付された写真には、

私がよく通う場所に酷似した川原が写っていた。


だが、何かがおかしい。


背景に、見覚えのない――

朽ちた鳥居のようなものが立っていたのだ。


気になって、翌朝その場所へ向かった。


何度も通ったはずのルートに、

今まで気づかなかった獣道が現れていた。


草を押し分けて進むと、

まさにあの写真と同じ構図の川原にたどり着いた。


確かに鳥居がある。


赤黒く錆び、今にも倒れそうなそれは、

風のない空気の中で――

じっとこちらを見下ろしているようだった。


その日はなぜか、一匹も釣れなかった。


代わりに、川の向こう岸に「私」が立っていた。


本来、ここから対岸は遠すぎて

顔の判別などできないはずなのに――


服装も、帽子の色も、

顔までもが、はっきりと見えた。


しかも、“私”はまったく動かず、

じっとこちらを見つめている。


「……見間違いか?」


瞬きをした瞬間、

向こう岸の“私”は跡形もなく消えていた。


帰宅後、例の投稿のアカウントを確認すると、

プロフィール欄にはこう書かれていた。


《2022年7月24日最終投稿。

このアカウントは故人の遺志により公開されたままです》


その日は――

ちょうど2年前の、今日だった。


得体の知れない寒気に襲われながらも、

数日後、私はまた同じ場所へ向かった。


しかし、例の鳥居はもうなかった。


ただ、草が踏みならされた痕跡と、

どこか空気の抜けたような静けさだけが残っていた。


そして今日。


Xを開くと、見知らぬアカウントが

私の写真を投稿していた。


《#荒川 #謎の釣り人》


写っているのは――

あのときの“向こう岸の私”。


――つまり、今の私だ。


いいねもコメントもつかないその投稿は、

今も誰かに見られるのを待っている。


いつか、私が

誰かの“向こう岸”になる日が来るのだろうか。

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