浅く凹(しず)んだあと
森についての反復思考
あのあと
…オレ、あの件以降アイツと距離取ってるっつーかさ、ほとんど縁を切ったようなもんっつーか。いや、いいヤツだったし、躊躇ったっちゃぁ、まぁ、躊躇ったけど、LINEもインスタもブロックして完全に消したんだよね。
え?あ、あぁ、あの話言ってないっけ?ちょっと、あまりにも薄気味悪すぎて思い出したくないんだけど、うーん、マジ誰にも言うなよ。
アイツ、去年の秋…いや、夏かな。まぁ、いいや。そんくらいの時に彼女出来たって言ってたじゃん。「俺には似合わないくらい清楚で可愛いー!」とか、「リアル高嶺の花子さんだー!」って、バカみたいに自慢してたの、覚えてる?あぁ、あぁ、そう。ちょっとウザかったやつな。
そんで、だんだんオレらとの付き合いも悪くなって、アイツ、完全に彼女優先になっちゃって、軽ーく疎遠になってたんだけど、この前急によ?オレにLINEしてきて。昼頃に。
「授業終わったら俺の家で宅飲みしよう」って。
アイツ、彼女と同棲始めたとか何とか言ってたからさ、「彼女は大丈夫なん?」って聞いたら、
「死んだ」
って、来て。
…なんか、LINE越しでも生気を感じない…っていうか、とにかく地雷踏んだな、すごく、聞いちゃいけないこと聞いたなって思って。こういう時ってあまり詮索しない方がいいって言うじゃん。だから、特に何も言わずに、「聞いてすまんな。行くわ。」って返したのよ。
午後五時くらいに授業終わって、一旦家帰って色々準備したりしてさ、そんで、テキトーな酒とツマミ買ってってアイツの家に向かったのよ。午後七時ら辺に着いてピンポンしたら、何でもない顔でアイツが出てきて。「遅ぇぞー」とか、「あと二人来るんだよね」とか言ってたりして。ちょっとびっくりしたけど、…まぁ元気そうだった。あの時はね。あの時は。
で、えーっと、先にアイツと菓子食ったりゲームしたりしてたら、数十分後に二人友達が来て、あとはフツーの宅飲みって感じ。ほんのちょっと気まずさもあったけど、ほんとにたわいもない雑談とかして。「最近どう?」とか。そんな感じの。アイツもアイツで「単位がー」「バイトがー」って。
な。楽しそうに聞こえるやん。でも、アイツ、あんま酒飲んでなかったし、なんつーか、目が黒いんだよ。あぁ、黒いは黒いんだけど、そういう意味じゃなくて、生きてないんだよ。どこか虚ろなんよね。無理くり元気を装ってるってゆーか、うーん、なんて言うんだろ。とにかく、壊れてるって感じで。
まぁ、無理もないよな。正味オレもどんな顔して酒飲めばいいか分からんかったし。
それでも酔が回ると、楽しくなっちゃって。あっという間に夜の十一時でさ。友達二人は「終電が」って帰ったんだけどね。オレ、あの彼女のこともあって、終電ギリまで家に居て話聞いてやろうって。そっから二人でちびちび飲んでたんね。
そしたら、アイツ、彼女の話しだして。すまん、酔ってたから話のディテールはあんま覚えてないんだけど。同棲したてだったとか、事故だったとか、忘れられないとか言ってて。すっげー泣いてたんだよ。アイツ。袖濡らすくらい、ぼろぼろぼろぼろ大粒の涙流して、途中嘔吐いたりもしててさ。人がこんなに泣いてる姿、オレ初めて見たんだよね。
でも、そろそろ終電がヤバい時間になってきて、一言かけて急いで帰ろうとしたらさ、アイツ、足にしがみついてきて。「かえらないで」って。いやぁ、悩んだよね、正直。…今、思い返しても、どうしたら正解だったのか分かんないんだよね。…あ、まぁ、そん時は仕方ないから泊まってくことにしたんだけど。
パパッと寝て、念の為いつもより早めに起きて大学行くつもりだったから、じゃあもう寝ようっつって。オレは床かソファとかで良かったんだけど、アイツは「無理矢理引き留めた」だの「申し訳ない」だの言って、結局、男二人でセミダブルのベッドで眠ることになって。いや、いや、普通に嫌だったけどね。普通どっちかがソファで…みたいな?だいたい泊まる時ってどっちかが妥協するじゃん。アイツはアイツで譲らないし、でも、オレがソファで寝ることは頑なに認めないしで。
ただ、疲れてたし、とやかく言う気力もさほど無かったから、なあなあで済ませて寝たのよ。軽くうがいして、上着だけ脱いで、ササッとベッドインって感じ。
でも、あまり寝付けなかったんだよね。いや、ていうのもさ、オレが寝てる後ろでずうっと泣いてるんだよ。多分、オレに気を使ってアイツなりに声を押し殺してるつもり、なんだろうと思うけどさ。
えぐっ、うぅ、っひぃ、ぁぐ、みたいな。
その、さ。鼻水とか、唾液とか。ほら、分かるでしょ。そりゃ寝れないって。そして、なんか、首元にアイツの鼻息、が、すごい、かかるのよ。しかもかなり近くで。多分距離的に三センチも無かった、と思う。
で、さ。んー、なんか、なんつーんだろ。アイツ、誰かの、まぁ、彼女の名前言いながら、その、抱きついてきたんだよ。寝ながら、バックハグ、的な。そこでぶわっと酔いと共に目が覚めちゃって。無意識で振り払おうとしたんだけど、なんか、アイツのことを思うと、いたたまれなくなって。…てか、なんか地味ーに力強かったし。振り払おうとしても無理だったろうね。
アイツ、寝てたかどうか分かんねーけど、ずーっと、寝言で、「りな、りな、」って言ってて。で、えー、っと、ね。ごめ、こっからは想像したくないっていうか、夢であることを願うんだけど。アイツ、オレの胸触りながら、その、そのー、勃ってたんだよ。
いや、いや、ほんとに。冗談言うと思うか?ここで。冗談でもつまんなければ、たとえ夢でもクソだし、現実なら、もっとクソ。
ま、まぁ、明日も早いし、何とか寝て、で、起きて、アイツが起きる前に支度して逃げるように帰った、って顛末。
そっからもう、四ヶ月経ったけど、今アイツがどうしてるかとか、全く聞かないなー。帰ってすぐ連絡先消したし。あ、でも、消す前に一つメッセージがあって。いや、大したことないんだけど。ただ、
「ありがとう」
って。
ああ、ミックスグリル、オレのっす。てか、お前、人が話してる時にスマホ見んなし笑。聞いてた?あぁ、聞いてたなら良いんだけど。いや、マジで怖かったわ笑。だってコレさ、ん?日付?流石に覚えてな、いや、確かゴールデンウィーク明けすぐの事だったから、五月の八だわ。うん。そんな気がする。どしたん?え?ん、なにそれ、記事?ブログ?
なになに、2023年5月6日、██区のアパート、で、河合李依奈さん、早朝、に、突然死。
朝起きたら隣で。同居人が発見。
へぇ。
うん。
いいよ。聞かせて。
あー、確かにちょっと湿ってたけど。
オレが?はは、怖いこと言うなよ。
浅く凹(しず)んだあと 森についての反復思考 @t___y
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