三十九輪 文化祭イブのお昼どき

ウィルサイド

文化祭まで、あと一日。

ボクは、小さくため息をつく。

今日もずぶ濡れだ。

制服も、髪も、靴下の仲間で、全部びっしょびしょ。

ついでに、膝に擦り傷。

軽く血もにじんでる。

皆の前で転ばされて派手に転んだ。

別に、あれ転ばなくてよかったけど、一般人は転ぶから転んどいたんだけど。

でも、誰一人として声すらかけてこない。

チラ見するだけで、あとは知らん顔。

……ホント最悪。

だから学校嫌いになるんじゃん。

学園理事長牧くんだから、なんか生徒として会うとき気まずいし。

特に、アイツ。

翼陽勝人。

日の出学園の高等部で一番って言って良いほど、女にモテる。

今も教室の前に立って、わらわら集まってきた女子に囲まれている。

……うざ。

でも、最悪だったのはその後。

立ち上がろうとしたとき、勝人が目線をこちらに向ける。


「……大丈夫?」


優しげに差し出された手。

……は?何コイツ。

これが大丈夫そうに見えるわけ?

その手を、パシッと払いのける。


「……お前には関係ない」


一瞬だけ、勝人が瞬きして、寂しそうに呟く。


「そう……」


勝人に背を向けて、ずぶ濡れのまま教室に戻る。


「おかえり、翼」


「……斗煕。ただいま」


合川斗煕。

幼馴染。

ディルタの中でいうところのマリー。

真面目に。

……多分、心配してくれるのは、コイツぐらいしかいない。

いや、ワンチャンコイツも心配してるどころか楽しんでる。


「今日も派手にやられたな」


「まーね」


「でももう、学校で普通の人演じるの疲れただろ」


「当たり前でしょーが」


きっと、勝人は、内心で嘲笑ってる。

可愛そうにって顔して、こっそり笑ってる。

そう思いたい。

そうじゃなきゃこれまで勝人に向けていた気持ちがバカみたいだ。


「保健室行かなくていいのかよ?」


「別に。面倒だし」


「もうちょいマシな理由は?」


「無い」


斗煕が軽くため息をつく。

すると、ふと思いついたように口を開く。


「そういや、もうすぐ文化祭だな」


「確かに」


「いつだっけ?中等部の」


ボクは廊下に貼られたポスターを指さして言う。


「明日」


「……ん?」


斗煕の動きが止まる。


「明日」


「え……?」


「明日」


斗煕の顔がさっと青ざめる。

ポスターの文字を食い入るように見つめる。


「マジかよ……。準備終わってないんだけど」


「ま、何とかなるでしょ」


ボクは軽く笑って肩をすくめる。


「明日、楽しみ……っ!」

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