三十八輪 ダブルプレゼント

アビゲイルサイド


中等部の文化祭まであと二日。


「アビゲイルさん、お久しぶりです」


廊下を歩いていると、声をかけられた。

ゆっくりと振り向く。

……ああ、もうひとりの補佐、カルロッタさんか。

彼女もぼくも、顔の半分ほどを布で隠している。変装が面倒だからというだけだけど。


「数日前、私の疑いが晴れたときに、ナギア様が祝ってくださったんです。でも、こちらからしっかりとしたお礼が言えてなくて」


「それなら、丁度いいですね。今日は、ぼくとナギア様が初めて出会った火なので、せっかくだから、一緒にプレゼントを買いに行きましょう」


「はい。夜も遅いので、やってるお店は少ないでしょうけど、変装している時間も惜しいですね。眼鏡とマスクとウィッグだけつけていきますか」


「了解です」


すぐにつけて、並んで窓辺に立つ。

一瞬だけ互いに頷くと、風のように闇の中へ滑り込んだ。

夜風は寒かったけれど、それも悪くない。

夜でも営業しているデパートのようなものをようやく見つけ、中へ入る。

ただ、やっているのはデパートの中のコンビニぐらいだ。

誰も彼もが眠りかけている町の中で、煌々と灯りを灯しているこの空間は、まるで別世界だ。


「プレゼント、決まりましたー?」


「はいっ!ぴったりのものが見つかって、良かったです」


ぼくたちは並んでレジに並ぶ。


「お会計は……」


支払いを終えて、デパートの外に出る。

肌寒い風が頬を撫でて通り過ぎていく。

夜のビルの屋上を飛び移り、影の中をすり抜けて、誰にも気が付かれずに基地の入口へとたどり着く。

玄関から中に入り、ナギア様がいつもいらっしゃる部屋まで足を運ぶ。


「失礼します。アビゲイルとカルロッタです」


静かに扉をノックし、二人で並んで一礼をする。

ナギア様は椅子に座ったままこちらを見つめる。

ぼくたちは、それぞれ丁寧に包装したものを差し出す。


「数日前にお祝いしていただいたお礼です」


「ぼくからは、今日が出会った記念日なので」


「ありがとう、二人とも」


ナギア様がぼくたちからプレゼントを受け取り、包みを一つずつ開ける。

次の瞬間、ナギア様の顔が豹変した。


「二人ともヘアピンを買ってきてくれたのか?」


「「……え?」」


思わずカルロッタさんと顔を見合わせる。


「サイドの髪が邪魔そうだったので……」


「私も、同じ理由です」


ナギア様が口元に拳を持っていき、吹き出すように軽く笑う。


「二人とも、ありがとう。とても嬉しい」


その言葉と同時に、ナギア様の手がすっと伸びて、のくたちの頭にぽん、と載せられる。


「今日もお疲れ様。明日も頼りにしているからな」


ナギア様の暖かい手がよしよしと優しく頭を撫でる。

そして、名残惜しさを残して、ぱっと離れていく。

その一瞬に込められた暖かさは、きっと誰よりも深い。

声をかけてもらえたこと。

撫でてもらえたこと。

そのどれもが、明日の自分を支えてくれている気がしていた。

ひっそりした廊下で、二つの足音が足音を奏でる。

……今日は、良い一日だった。

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