三十七輪 料理対決

文化祭まで、あと三日。

あの学校の中等部の文化祭は夏。

高校も合同だ。


「んー、カルロッタのご飯、今日もおいしいー!」


ボクは夢中になって口いっぱいにご飯を頬張る。

朝からこのクオリティは正直すごすぎる。

一生食べられてられる。


「そうですか?ありがとうございます」


「ボク、皆のご飯も食べてみたいなー」


そう言った瞬間、場の空気がピキッと凍り付いた。

え、ボク、今なんかおかしなこと言った?


「……ど、どうしたの、みんな」


「いや、その発想はなかったと思って」


「クッキング対決……する?」


「聞いてないって」


あれ?みんなとどこかですれ違いが起きてるような、噛み合ってないような気が、めちゃくちゃする。

すれ違いというか、世界戦が微妙にずれたような……。

ま、いっか。


「やってみたい」


そう言ったボクの言葉に、マリーが頭を掻いてウィリアムをちらっと見る。

ウィリアムは軽く頷いてシャーロットを見る。

シャーロットも思いっきり頷いて、マリンを見る。

マリンは右手でまるを作って右目の近くまで持って行って言う。


「おけまる水産ー」


「それじゃあ、私は審査員やりますね」


カルロッタも意外と乗り気だ。

みんなエプロンをつけて、わらわらとキッチンへ移動する。

ボクも参加しよっと。


「よーい、スタート!」


シャーロット、包丁の扱い慣れてるなー。

すごく器用に包丁を使ってる。

料理番組のプロみたいだ。

普段からナイフを使ってるだけある。

反対に、ウィリアムはさっきから間違ってばかりだ。


「ウィリアム、また人差し指切ってるよ」


「気が付かなかった……。ありがとう」


淡々と答え、自分の指に絆創膏を貼る。

何本目だろう。

マリーは結構順調そうだ。

ボクも結構いいんじゃないか?いい仕上がりな気がする。

多分、きっと。

マリンは今買い出しに行ってる。

材料が足りないらしい。

しばらくして、全員が作り終わる。


「じゃあ……まずは俺から」


そういってウィリアムが出てくる。


「俺が作ったのは、これ」


カルロッタが料理を見て少し固まる。


「……シチュー、ですか?」


「ああ」


「じゃあなんでこんな赤っぽいんですか」


「もしかしたら、自分の血が入ってしまったかもしれない」


カルロッタは意味が分からないという顔をしながらも声だけは冷静に落ち着ける。


「……鉄分多くて結構ですね。でも、味も見た目も悪くなってしまいますからね?トマトソースとかと一緒なら見た目はあまり悪くありませんが。そこは気を付けましょう」


ウィリアムはこくこくと頷いて下がる。

その次に出たのはマリン。


「どーぞ!おいしそーでしょ?」


「オムライスですか……」


元気いっぱいにカルロッタに手渡された皿の上には、チキンライスにふわっと卵が乗っていて、ケチャップでハートが書かれている。

周りもケチャップでデコられてる。

うん、マリンらしい料理。

カルロッタがそっと一口、口に運ぶ。


「ん!おいしいですね」


「ありがとー、カーリー」


マリンの満面の笑みにカルロッタは少し頷く。

次に前に出たのは、マリーだった。

差し出された皿には、焦げ目がほんのりついた分厚いホットサンドが乗っていた。

中からはとろけたチーズと卵が覗く。

カルロッタが一口かじって頷く。


「味のバランスがいいですね。少しブラックペッパーが強めですが、これはこれで良いアクセントだと思います」


「だろ。朝食べるなら、これくらいは刺激がほしい」


続いてはボクが皿を運ぶ。


「ボクのは、スクランブルエッグと、野菜スープ。あと、焼きたてっぽく見せたパン」


「見せた、なんですか」


「焼いたのはフライパンじゃなく、トースターだったからね。野菜スープ一番頑張ったよ」


カルロッタがスープに手を伸ばす。


「美味しいです。優しい味ですね。野菜の出汁がしっかり出ています。ただ、少し塩が多いようにも思えます」


塩、多かったか……。

味見しっかりしておけば良かったな。

そして最後に、シャーロットが出てくる。


「カルロッタさんへの愛をこめて作らせていただきました。お肉と野菜の炒め物です」


カルロッタがその皿を受け取って食べる。


「美味しいですね。お米が進む味です。私は個人的にすごく好きですよ」


シャーロットのほほがほんのりと紅潮した。

それを見て、全員が自然と笑顔になる。

毎度のごとく、マリーは除くけど。

カルロッタは、改めて皆を見渡して言った。


「どれも個性があって、甲乙つけがたい仕上がりでした。そうですね、朝食として食べたいのは、やっぱり自分のですかね」


「えー、それは逃げでしょー!」


ボクが笑って叫ぶと、マリーが審査員の特権だろ、と肩をすくめる。

そんなふうに、朝のひとときは、笑いと香ばしい香りに包まれていった。



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