旧都文明の遺産が転がるディストピア、そこに巣食う謎の星獣ーー鈴の音と金属音を発する美しい怪物の正体が気になり、ページをめくる手が止まらなくなりました。
『夜襲の星』を探すバディの関係性も親しみやすく好きですが、何より惹かれたのは、“未知の存在”である星獣の美しさ。ガラスや血管などの描写が美しく、その裏にある「残酷さ」に胸を打たれます。
世界観と設定の重厚さから、なかなかの長編になるとお見受けしました。
これからも現れるであろう“ネームド”たちが、どんな美しい姿をしているのか。また、どんな「残酷さ」を持っているのか。それを楽しみに、読み進めさせていただきます。
最後に、作者の星森あんこ様へ
重苦しい闇を呑みつつも、希望となる星の光を探し潜り続ける……そんな感覚で、物語の世界へ浸らせていただきました。読み応えのあるSF作品をご紹介いただき、ありがとうございます!
星海の中で足を踏み外さないよう、静かに、物語の行方を追っていきたいと思います。
ダビーとコルヌスという二人の主人公が、独自の感性で描かれた終末感漂う世界を旅するSF作品です。星海や聖獣といった巨大な災厄によって世界は脅威にさらされていますが、それらがどのように誕生したのか──その根源には規模の大きな謎があるのです。主人公の二人は、自分自身が抱える秘密を解き明かすために旅を続けており、その終着点で世界の謎に迫ることになるのだろうと予感させてくれます。
長編でありながら、序盤から伏線が仄めかされ、物語の合間ごとに少しずつ回収されていく展開に、読者は続きがますます気になってしまいます。
最新話(レビュー執筆時点で第21話)までの間に、3つの舞台が描かれています。それぞれの世界は無機質な質感で構成されていながらも、作者の感性によって不思議な美しさと面白さが生み出されています。
また、一人ひとりのキャラクター設定がしっかりと作り込まれており、「モブらしいモブ」が存在しないのも特筆すべき点です。かといってごちゃつくことはなく、それぞれが物語の中で役割を担います。残酷で切ない展開がある一方で、ユニークなキャラクターたちのコミカルな振る舞いがビターな物語全体を程よくマイルドにしてくれているのです。きっと作者には「本当は書きたかったけれど妥協したキャラ設定」もあるのだろうと感じられ、スピンオフ作品などへの期待も膨らみます。
作者の“好き”が詰め込まれた、少し儚く、それでいて希望を抱いて生きるダビーとコルヌス、そして仲間たちの活躍を、これからも楽しみにしています。
透明感のある精緻な描写が印象的で、まるで星々の海を旅しているかのような清涼感が、作品全体を包んでいます。砂丘や星獣、旧都文明の遺物など、舞台設定の一つひとつが丁寧に描かれており、読者はその世界に自然と没入していきます。
キャラクターたちは皆、信念や目的を持って行動しており、その姿勢に強く惹かれました。特にダビーとコルヌスのバディ関係は、恋愛未満ながらも深い信頼で結ばれており、互いに補完し合う姿が非常に魅力的です。加えて、脇役であるアステリーも含め、登場人物それぞれが個性を持ち、物語に厚みを与えています。
また、深淵や宇宙的恐怖の描写も絶妙で、星獣の存在やコズミックホラー的存在のイメージは、読者の想像力を刺激しつつ、物語に緊張感と神秘性をもたらしています。
このレビュー時点では、物語はこれから佳境に入る段階であり、今後の展開に大きな期待を抱きました。
星々達の集いが、星海という恐怖にどのような波紋を引き起こすのか——抗い、打ち勝つことはできるのか?——その答えを見届けるのがとても楽しみです。
無貌。
このたった一つの特徴で、意思の疎通も、状況や感情すらも察知できない敵を描く。
それだけで、この物語は追いかける価値がある、と断言できる。
じっさい、読み始めると、ページを繰る指が止まらなくなる。
この小さな仕掛け一つが、SFとも神話ともつかぬ設定、砂とガラスと星という無機質で透明な美しい世界、どこか含みのあるキャラクターたちが持つ心情につながっていく。
星。石英の砂丘。ガラス。結晶。
透明な無機質こそがこの世界の象徴であり、そこに生きる人間だけが、濁った有機質として、生々しく動いている。
この相反する2つの象徴が、この世界のすべてだ。
そして、世界は、無機質に傾きつつある。
この細緻で美しい仕掛けが施された世界の根底には、作者がこれまでに触れてきた優れた諸作品のエッセンスが、深淵の向こうあるいは砂の海の奥深くにがっちりと根を下ろしているように思われる。
そして、ハイファンタジーではなく、SFというジャンル選択をしたことも無視はできない。ファンタジーならば「ほかに存在している可能性がある」世界を、SFという背景を選び取ることで、一気に独創性の高いステージへと押し上げた。
そんな終末後の世界で、神に等しい力を持った敵を相手に戦い続ける主人公たちの姿は、良質なアニメやゲーム作品のようだ。テンポよく進むシーンと、次々と起こる事件が物語のドライブを加速していく。
そう、この物語は、際立っている。
バキバキにエッジが効いた本作、追いかけることは、必至である。
クトゥルフ神話好きですか?
私は好きです。
なんならいくつかの作品に流用したりしています。
そう、流用するのはやりやすいんです。ある程度イメージが皆の頭の中にあるので。
そこで考えてみましょう。
クトゥルフ神話を流用せずに、同じコズミックホラーが書けますか?
しかもクトゥルフの雰囲気、醍醐味を損なわないように。
これは難易度が高い。
というか、楽をしようとするとそれはやらない。
そこに果敢に挑むのが本作。
深淵を覗きましょう。
深淵はきっと見ています。
でもこれはクトゥルフ物ではありません(タグにもありません)
そしてちゃんとSFで、神話物です。
読みたくなったでしょ?
さあ、読みましょう。
もし、ある日突然、夜空が布のように破れ、その向こうから底知れぬ「深淵」がこちらを覗いていたら?
本作の舞台は、そんな悪夢が現実となった世界。夜空の星々をその身に宿したかのような異形の怪物「星獣」が地上を闊歩し、彼らが通った後には、街も、歴史も、人々の記憶さえも飲み込んでしまう謎の領域「星海」が広がる。
静寂に満ちた砂の海と、夜空のインクが零れたような怪物。この物語には、思わず息をのむほど美しく、そして残酷な風景が広がっています。言葉のひとつひとつが映像となって心に流れ込んでくるようで、読み進めるうちに、その退廃的な魅力に心が惹きつけられて離れません。
ただ明るいだけの物語では物足りなくなった、と感じる方にこそ、この静謐な絶望感を味わってほしい。希望はあまりに小さく、絶望は海のようです。しかし、その仄暗い世界観だからこそ、登場人物たちが放つ一瞬の輝きや、静かな覚悟が胸を打ちます。
詩的な文章に浸りながら、少しビターで、心に深く残る読書体験を求める夜に。きっと長く大切にしたくなる、そんな素敵な物語です。