退廃的な美しさが心を蝕む、ダークSFファンタジー
- ★★★ Excellent!!!
もし、ある日突然、夜空が布のように破れ、その向こうから底知れぬ「深淵」がこちらを覗いていたら?
本作の舞台は、そんな悪夢が現実となった世界。夜空の星々をその身に宿したかのような異形の怪物「星獣」が地上を闊歩し、彼らが通った後には、街も、歴史も、人々の記憶さえも飲み込んでしまう謎の領域「星海」が広がる。
静寂に満ちた砂の海と、夜空のインクが零れたような怪物。この物語には、思わず息をのむほど美しく、そして残酷な風景が広がっています。言葉のひとつひとつが映像となって心に流れ込んでくるようで、読み進めるうちに、その退廃的な魅力に心が惹きつけられて離れません。
ただ明るいだけの物語では物足りなくなった、と感じる方にこそ、この静謐な絶望感を味わってほしい。希望はあまりに小さく、絶望は海のようです。しかし、その仄暗い世界観だからこそ、登場人物たちが放つ一瞬の輝きや、静かな覚悟が胸を打ちます。
詩的な文章に浸りながら、少しビターで、心に深く残る読書体験を求める夜に。きっと長く大切にしたくなる、そんな素敵な物語です。