6
「おい、こんなところで何をしてるんだ。いくら自由時間だからっていっても、公園で寝ることはないだろう」
目をあけると、黒ぶちめがねの顔がのぞきこんでいた。
「あ、顔のまずい北原先生」
「顔のまずいは余計だ。さあ、立って」
見まわすと、そこは現代の広島の平和公園だった。私が立つと、他の三人も立ちあがった。
「集合時間には遅れないように」
それだけ言って、先生は行ってしまった。
「やったー、戻れたんだ」
私はとびあがった。
三人は白い目を私に向けた。照れ隠しに、私は笑った。
確かに今はもんぺなんてはいていなくて、普通の制服のスカート。没収されていたはずのリュックも足もとにあるし、ポケットを探ったらちゃんとスマホも財布もある。ほかにもなんか紙屑みたいなのも手に触った。
「あは。ちょっと、夢見てたもんで」
「そうなんだ。私も実は夢見てた。なんか、めっちゃリアルな夢だった」
純夏も倒れる前の不機嫌さはなく、そう言った。その時、妃菜が急に叫んだ。
「夢じゃあない!」
妃菜はポケットから、くるまった新聞紙をとり出した。
中には花の種が入っていた。その新聞紙は、どう見ても現代のものではなかった。私ももポケットをさぐると、やはり同じように新聞紙にくるまれた種が出てきた。さっき紙くずと思ったのが実は種だったんだ。
「夢じゃなかったんだ、さっきの」
「この種、東京に帰ったら播こう! だって、約束したんだもん」
純夏が叫ぶ。みんなも力強くうなずいた
「そして、世界中に咲かせようね」
私が言うと、星もうなずいてくれる。
「その時は、人類がひとつの家族になってるといいね」
「今日のことは、神様からのプレゼントだったかもね。あの子たちには教えられたよ。いい勉強になった」
「妃菜、いいこと言うじゃん、たまには」
そう言って妃菜の肩を叩くと、妃菜は笑ってとびのいた。
四人で、笑い声をあげた。
「もう、土のついた手でさわったら、制服が汚れる」
「あの子たち、原爆で死んじゃったかなあ」
星がぽつんと言ったつぶやきに、純夏が目を上げた。
「大丈夫よ。たとえそうだったとしても、私たちの中に生きてる」
「なんか、ドラマのせりふみたい」
妃菜が茶化して、また笑いがあがる。
「いつか世界がひとつになる日が来るよね」
純夏の横顔を、私は見た。いつもの純夏に戻っていることが、私には嬉しかった。
「そんな日が来るのを待っていつだけじゃだめだよ。私たちが平和な世界を作ろう。そのための種になろう。種を播くだけじゃなくてさ」
「いいね、それ」
「心に強く思って、言葉に出して言って、そしてその通りに行動する。そうしたらすべての思いは実現するよ」
私は頭で考えてじゃなくて、ほとんど直感でそんなことしゃべっていた。
昭和二十年八月六日の広島……そこで悲劇なんて言葉では言い尽くせない大きな大きな出来事があった。
そして今年の夏。私たちにとっても大きな事件があったのだ。
だから私は言葉を続けた。
「すべての人が未来には平和と喜びを感じる。この種から花が咲いたら……」
笑顔で私たちそれぞれの手の中の種を見つめながらは、うなずきあっていた。
(おわり)
この花咲いたら John B. Rabitan @Rabitan
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