第1話

異世界転移は無事に成功した。魔王城の周りは平原があ広がっており、近くには人工的なものは存在していないことが分かった。


「ふむ、まずは周辺の地理を調べないとな。アドミニスよ、お前のアンデット斥候部隊を使い周辺に人工物がないか調べ上げろ。それと、幹部たちは城の防衛戦力として待機するようにな」


そういうと、アドミニスを含めた魔王軍幹部たちが玉座の間から退室していった。


アドミニスは、法衣を着ているアンデットで多くのアンデットを従えている不死王ノーライフキングと呼ばれる種族だ。魔法の扱いにも長けており万能型の魔王幹部だ。


玉座の間に一人残った魔王ギルは、周辺の情報が集まるまでは自室で一人休むことにした。



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一人部屋にしては大きすぎる部屋で一人の少年が涙を流していた。


「ごめんな、トリス、、、、僕がもっと早く動いていれば君が死ぬことはなかったのになぁ。勇者なんて職から引きはがしていればよかった」


まだ、勇者トリスが死んでから時間はそう経っておらず彼女の死を悲しんでいた。魔王ともあろう男でも、友人の死には弱かった。


勇者は女性だった。綺麗な女性だ、長身の金髪碧目の美女だった。魔王ギルと並ぶとギルはトリスの肩ほどまでしかなく二人が並ぶと身長差があることがはっきりとわかるものだった。


勇者は死んだ。神々からの神勅に逆らいその身を滅ぼされた。それ故に遺体を遺骨を回収できなかった。残っているのは、トリスから預かった銀の指輪と楽しかった思い出だ。


魔王は泣いている。部屋の外にはメイドが待機しておりその鳴き声は微かに聞こえているようだ。魔王たちの配下から見ても魔王と勇者の仲は良好で魔王配下の幹部だけでなくアドミニスのアンデットの様な者たちにも、気を配り挨拶もしてくれる良い人間だった。


そんな中で勇者に言い渡されたのはだった。魔王は、魔王軍の皆は勇者からその事実を聞いたとき困惑のあまり言葉を失っていた。このとき、声をかけていれば未来は変わっていたのかもしれない。


そして勇者は言った、


「魔王は討伐しない」


その刹那、勇者の体は崩れ落ち何も残らなかった。


魔王たちの油断により、勇者は死んだ。神々の悪戯により勇者は死んだ。


魔王の思考は、こんな感じだったのだろうか。


魔王は勇者が崩れ落ちる瞬間に思い出した。神々の遊戯は残酷なもので、それをあざ笑う道徳の欠片もない外道だったと。魔王は怒った、至極当然のことだろう。何もおかしいことではないだろう、友人を神々の気まぐれで殺されたのだ。



そして、神々もまた思い出した。


静かに生きているだけで自分たちの世界に途中からやってきて無断で住み始めた不法滞在者で魔王一行のことを。


世界を管理している数多の神々の間では有名な話だが、はるか昔に神々を滅ぼさんとする一行がいたらしい。その一行は神々の力を上回るほど強く、一時期ではあるが神々が絶滅しかけたのだ。後にその一行は魔王という事が分かった、この事件の始まりを知る者は少ないが魔王にも言い分があったのは事実。


そして、此度もまた魔王によって神々の命が狙われることとなった。



魔王とは、魔族と呼ばれる種族を統べる王であり


人ならざる存在の王だ。


魔王ギルは、配下を長らく共にした家族同然のように思っている。


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世界を滅ぼした魔王の異世界侵略 はらぺこ・けいそ @keito0390

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