第10話:Keep Your Dream
◇新たな始まり◇
***
杉野耕一が警察署に辞表を提出してから数週間。
彼は刑事としての過去に別れを告げ、新たな「人生の道」を歩み始めていた。
彼の隣には、いつも吉沢みずきがいた。
彼女は、杉野と二人で制作したデモ曲に、新たな命を吹き込むかのように、魂を込めて歌い続けていた。
「耕一さん、この曲、タイトルは『Keep Your Dream』にしようよ」
みずきが目を輝かせながら言った。
「そうだね。どんなことがあっても、夢を諦めないって、今の俺たちにぴったりだ」
杉野は微笑んだ。
◇それぞれの道◇
***
吉沢伸とマリアは、過去の傷を乗り越え、生まれてくる子どもとの生活に希望を見出していた。
マリアは穏やかな笑顔を取り戻し、伸は父親になる喜びと、妻への深い愛情を噛み締めていた。
今はまだ無理かもしれないが、将来的には夫婦二人で、再び音楽の道を模索する可能性もあるだろう。
彼らの音楽は、以前よりもずっと、温かく、そして深く、人々の心に寄り添うものになるはずだから。
高杉慎司は、弁護士資格を剥奪された後、吉沢が勤める病院の事務長として、新たなキャリアをスタートさせていた。
彼の冷静さと的確な判断力は、病院の運営に大きく貢献していた。
そして、彼は陰ながら、逮捕された佐野隆弘の弁護団に助言を与えていた。
自身の弱みにつけ込まれ、悪事に手を染めた佐野への、彼なりの贖罪だった。
それは、高杉がかつてマリアに抱いていた「不器用な愛」とは異なる、新たな形での「仲間への愛」だった。
佐野は、刑務所で自身の罪と向き合っていた。
彼の心の「影」は深いままだったが、高杉からの間接的な助言と、みずきが時折送ってくる手紙が、彼に微かな光を与えていた。
いつか、彼もまた、自身の「影」から抜け出し、新たな光を見つけることができるだろうか。
◇静かな「沈黙の掟」◇
***
彼らは、二人でデュオ「Dual Row」を結成し、都内の小さなライブハウスで、初めてのステージに立った。
デビュー曲は、二人の苦悩と希望が詰まった「Keep Your Dream」だった。
「Dual Row」デビューライブの夜。
吉沢伸とマリアは、生まれてくる子どものために、家でネット配信を通して彼らのライブを静かに見守っていた。
高杉は病院の事務室で、パソコンの画面越しにライブを視聴していた。
遠く離れた刑務所の独房で、佐野もみずきの手紙で、彼らの歌に思いを馳せていたかもしれない。
メンバー間の絆は、それぞれの過ちや代償を経ても崩れることはなかった。
それは、互いの人生を尊重し、静かに見守る「沈黙の掟」へと形を変えていた。
かつて、秘密の隠蔽を意味した「Silent Law」は、今、深い理解と絆へと昇華されたのだ。
ステージの上で、杉野とみずきは、満面の笑みで歌い続けていた。
彼らの歌声は、過去の悲しみや苦しみを乗り越え、未来への希望を紡ぎ出す、清々しい風のように、会場に響き渡った。
---
輝いた星はきっとあの日のまま
年月という名のガラスが
ほんの少し曇っただけ
君とまた巡り会えた奇跡が
変わらない輝きを語り始めた
Keep Your Mind
きっと変わらない
Keep Your Dream
ずっと変わらない
この想いがきっと叶うように
ずっと変わらない夢を
追い続けよう
---
彼らの歌は、それぞれの心の奥底に眠る夢を、これからも静かに、そして力強く照らし続けていく。
(完)
Silent Law 真久部 脩 @macbs
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