おいしいお米が食べられますように

住吉スミヨシ

おいしいお米が食べられますように

「一番好きな食べ物は?」と聞かれると、私は迷わず「ちりめんじゃこ!」と答えてきました。

子どもの頃、ちりめんじゃこは「ちりめんじゃ」という魚の赤ちゃんだと思い込んでいて、食べすぎると絶滅するんじゃないか……と密かに恐れていたものです。


炊き立ての白いご飯に、ちりめんじゃこをひとつかみ。

そこへ甘めの九州醤油をとろりとかけると、ご飯の香りに魚と醤油の香ばしい匂いが混ざり合い、ふわっと立ちのぼる――その瞬間、思わず手を擦り合わせ、「ああ、幸せだな」と笑みがこぼれます。


「わたしはあなた(ちりめんじゃこ)に出会うために生まれてきたんだね……」

『そうだよ(無数の目の圧)』


心の中でちりめんじゃこと会話する私。

こうやって見ると、命の数がすごい……。


【わたしの一番の好物はちりめんじゃこである】


この信念は成人しても変わらず、隙あらば地方のちりめんじゃこやしらす情報を探し回っていました。


東京出張で二週間滞在した際も、休みの日に一番に向かったのは江ノ島。

皆様ご存知、しらすのメッカです。


その日は台風シーズン真っただ中。

江ノ電の窓から見えるのは、灰色の空と荒れ狂う海。

パンフレットで見るような青の美しい景色には程遠かったものの、私の目は「絶対に江ノ島のしらす丼を食う」という野望でギラついていました。

暴風雨の中、スマホを片手に「名店」と称される江ノ島のしらす問屋、とびっちょ本店に辿り着きました。行列必至のはずが、天気のおかげで特に待つこともなく、すぐにしらす丼にありつくことができました。


そこでわかったことは「生のしらすはそんなに好きじゃない」ということです。しかし釜上げしらすは臭みもなく本当に美味しくて、江ノ島に来ることがあれば絶対にまたここにこようと思いました。


そんなある日、職場で同僚と話していて思わぬ事実を突きつけられます。

「お前が好きなのって、ちりめんじゃこじゃなくて「じゃこご飯」じゃね…?」


じゃこ…ご飯…?


振り返ってみれば確かにそうです。わたしの愛するじゃこの側には必ず「白飯」がありました。なんということでしょう、今までちりめんじゃこ単体では食べていないということに気付きすらしていませんでした。

この事実に私は少々戸惑いました。

ちりめんじゃこを美味しく食べるためにご飯を食べていたのか、

ご飯を美味しく食べれるからちりめんじゃこが好きになったのか、わからなくなったのです。

15年くらいちりめんじゃこ一本で勝負してきたのに。

交通費6万かけて、愛媛のしらすパークだけに行こうとしていたのに(狂気)。


しかし、お米が好きなのは間違いありません。

毎日食べてるのに毎日「米食いてェ〜」と思っています。

じゃあ、せっかく気付きを得たことだし、ちりめんじゃこ同様、お米についてもいろいろ調べてみるか……と銘柄などを調べ始めたところ、最終的に『ブランド米開発競争―美味いコメ作りの舞台裏』という書籍に辿り着き、

「米、すげえ……」とめちゃくちゃ魅了されてしまったのです。


何気なく食べている米にこんなドラマがあったとは……涙。

(お察しの通り、すでに好物と全然関係ないところにいます。私は調べ始めると止まらなくなってしまう人……)


そうして銘米戦記の構想が生まれ、現在、小説を書くまでに至りました。


「アタイ、一生米と一緒に生きてく!」

キラキラと輝く瞳で空を見上げるわたしに、一通の健康診断結果が届きます。

「糖尿病疑い、要再検査」


糖尿…病…?


糖尿病というと、あれですか? なんかこう、生活習慣病的な?

身内に糖尿病がいますが、そこに至るまでにかなりな暴飲暴食があったと記憶しています。

【風が吹いても親指に激痛】でお馴染み、痛風も併発し、

「食欲に飲まれた愚かな男の末路よ……」と腕組み王騎で眺めておりました。


私は、甘いものも好きじゃないし、節度を守った食事量で平均体重以下ではあるので、全く無縁のものだと思っていました。


が。



どうも日本人はインスリンの分泌が弱い民族らしく、普通の食生活をしていても食後血糖値がスパイクして将来糖尿病になる確率がとても高いらしいのです。

なんでや! 弥生時代からの主食やろが! 日本人の膵臓は米が来たら即インスリン出せ! 米でスパイクすな!


(食後急激に眠くなってる人、多分スパイクしてます。ちなみに私は眠くならないのにスパイクしてました。)


検査結果は「境界型糖尿病」というものでした。

糖尿病ではないけど、このままだと近いうちに糖尿病になります、と言われました。


このままだとって何? もう、米食うなってコト……?!

糖尿病になると、ほぼ全ての糖質がアウトになってしまいます。

米だけではなくパン・麺・お菓子等にえげつない制限がかかるわけです。


イヤッ! イヤッ! 糖尿病だけは絶対にイヤッ!!!


「筋トレしてください」


筋……トレ……?


わかりやすく表情を曇らせる私に、医者は優しく告げます。


「7秒かけてスクワットを週2、合計6分するだけです。

筋力が増加すれば、インスリン抵抗性を改善させる効果がありますよ」

「そのくらいなら私もできそう!」


そう思っていた時期が、私にもありました。


開始直後「あっ」

1セット完了後「心が…折れた」


嘘だろ…と思う方も多いかと思いますがこれ、はちゃめちゃにキツいです。嘘だと思うなら【7秒スクワット】血糖値もさがる!?スロースクワットでダイエット!週2回でOK【6分】という動画を実践してみてください。


これはほぼ確の予言なんですが、私と全く同じことが起きるはずです(筋トレガチ勢は除く)


ということで、私はお米が大好きで、お米を題材にした小説を書いているにも関わらず、

茶碗一杯の米すら満足に食えなくなってしまうという悲しい運命を背負ってしまいました。


ドラマ化してください。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


米に翻弄されながら米に翻弄される小説を書いています。

興味を持ってくれた方、読んでいただけると泣いて喜びます。


■銘米戦記(めいまいせんき)

https://kakuyomu.jp/works/16818792436417802250







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