夏の肌裡（きり）、滴る記憶

夏の記憶は、
いつも皮膚の奥深くに潜んでいる。

この連作は、
その触れがたいほど繊細な「肌裡（きり）」に刻まれた、
ひと夏の滴るような記憶を辿る試みです。

五感の境界が曖昧に交錯する中で、
特に「触覚」の微細な変化が、
忘れ去られたはずの熱や、
失われた「君」の存在を鮮やかに呼び覚まします。

蝉時雨の熱波、
風に靡く髪の残り香、
グラスを震わせる遠雷の響き、
そしてスマートフォンの画面に揺れる残像。

それら全てが、
指先を這う露の線となり、
やがて熱帯夜の肌理（きめ）に刻まれた「迷宮」へと誘うでしょう。

直接的な言葉を避けながらも、
肌が覚えている微かな痛みや、
夜明けの静かな切なさを通して、
読者の皆様自身の夏の記憶、
そして秘めた官能に触れることを願っています。

一篇の詩が、…続きを読む