初冬
寄宿舎に集められた子供たちは親元から離れ、魔法を習うという生活に気を張り詰めていた。しかし、肌寒くなってきた頃その緊張感は消え、子供たちの中に気の緩みが生まれ始める。魔法に失敗する者が出るのは日常茶飯事、そんななか先生たちを一番困らせたのは子供同士の喧嘩だ。
あっちで「誰かがモノを取った。」こっちで「誰々がイジワルする。」と大騒ぎするけど。紅子もちょうどこの頃、仲の良かった子と喧嘩をした。理由はもう覚えていない。おそらくそれほど重要ではなく、くだらない理由だろうとあたりをつける。
ただ、紅子には思い出したくとも思い出せないことがあった。喧嘩の終わり方だ。
喧嘩した後、また仲良くなって卒業までを一緒に過ごしていたはずだが、それだけはついぞ思い出すことができなかった。
窓を開けられなほど風が冷たくなり始め、白い吐息が混ざるようになってきた頃、紅子と黄乃は相談室で二人向き合って座っている。一年も終盤に差し掛かったこの時期、相談室ににぎわいも落ち着きをとり戻していた。ゆっくりと談笑を楽しむ余裕もでてきたところだが、室内の空気は異様に重苦しい。二人の手には湯気が立つお茶の入った紙コップが握られていた。
「それで紅子ちゃん。いまだに紫音先輩に謝れてないの?」
「うん。それどころか顔も見れてない。」
あれから、紅子は紫音へ謝ろうとしたが姿を見るなり踵を返して逃げられ、美術室に行っても紫音の姿は見あたらない。完全に避けられてしまっている紅子はこの一週間ずっと落ち込んでいる。
「姿をみつけても逃げられちゃうんだから手の打ちようがないよね。魔法を使うのは流石にできないし。」
「そこなんだよね。今回、魔法を使っちゃって避けられてるのに、さらに魔法を使うだなんてできないよ。」
策は尽きたとばかりに二人同時にため息をつき、項垂れる。紅子にとって、目も合わせてくれなくなった紫音の態度に落ち込んでいるのもあるが、あの日から紫音は絵を描くことをやめてしまったと風の噂で聞き、胃の中をかき混ぜられている気分だ。
「とりあえず、今日はもう相談にくる人もいなさそうだし帰ろうか。」
「そうだね。」
黄乃の提案にのり、相談室を施錠し二人で廊下を歩く。すると、ちょうど目の前の廊下を紫音が横切るのが見えた。
「紫音先輩!」
紅子が駆け出す。逃すまいと必死に走り、角を曲がったところで紫音の姿は忽然と消えていた。並んでいる教室のどれかに入ったのではないかと、教室を一つずつ開けながら廊下を進むが、都合の良い幻覚と言われれば納得するほど、その姿はどこにもない。
「紅子ちゃん!紫音先輩いた?」
「ダメだ、さっきまでいたはずなのに・・・。」
「仕方ないよ。また明日探そう。」
「うん・・・。」
次の日は朝から黄乃と二人で紫音を探した。朝早くから玄関前で待ち伏せをするが、見落としたのか紫音と遭遇することはできず、いつの間にか朝礼前のチャイムがなってしまう。二人は慌てて、教室まで走る羽目になった。休み時間も紫音の教室へ走るが、すでに教室に姿はなく、同級生に聞けば少し前に教室を出て行ってしっまという。
廊下で見かけた時は、二人してダッシュするがいつの間にか見失っていた。
そんな状態状態が二週間ほど続いたある日、帰ろうと相談室を施錠していた時、先日と同じように紫音が近くの廊下を横切るのが見える。紅子は施錠を放り出して走り出した。100Mもない距離だ、すぐに追いつくと考える。
「紫音先輩!」
すぐそこにいると思い、大声で呼びながら角を曲がると、紫音の姿は忽然の消えいていた。
「紫音先輩、追いついた!?」
黄乃も後から駆けてくるが、廊下の光景に目を見開く。
「うそ・・・。さっきまでここにいたはずなのに・・・。」
「うん。そのはずなんだけど・・・。」
二人は紫音が忽然と姿を消してしまった廊下を眺めていた。
また次の日も紫音の姿を見つけては追いかけるが、やはり少し目を離した隙に消えてしまう。そんな状態をさらに一週間過ごした。
「ちょっと不自然じゃない?」
相談室で相談者を待っていると、黄乃が突然口を開く。
「不自然?」
紅子が首を傾げる様子を見て、黄乃が続けた。その顔は少し険しいものに見える。
「だって、この短時間で走りきれるような長さの廊下じゃないし、どう見ても消えてるとしか思えないよ。」
黄乃の言葉に納得するように、紅子も考え始め、自分の考えをポツポツと口にした。
「そうだよね、こんなこと魔法くらいしか・・・・。あ。」
そこまで考えたところで、一人の顔が紅子の頭に浮かんだ。黄乃も同じ人が浮かんだのが、目が合った。そして、同時に口から漏れる。
「「白子(ちゃん)だ。」」
紅子は最上階を目指して階段を登っていた。階段を登り切ると、白子はいつものように一人静かに文庫本のページをめくっている。そこで紅子は考え無しにここまできてしまったことに気がつく。紫音の不自然な逃走方法が白子の仕業だったといて、それは願い事の内容である可能性があるた。白子は依頼内容を教えてくれることはほぼないため、紫音のことについてもきっと教えてはくれないと、考えたところで、紅子は白子に聞くこと、言えることがないという結論に辿り着く。
目の前に立ってから、一言も発しない紅子に痺れを切らしたのか、白子は本を閉じ紅子を睨め付けた。
「何?」
「え、あ。」
「何か用事があって私のところに来たんでしょ?想像は着くけどね。」
白子の視線に耐えかねて、紅子は思わず床を見る。
「あの、白子・・・。」
「教えないわよ。どうせ紫音先輩のことでしょ。」
「うん。」
「寄宿舎で習ったわよね。『私欲のために魔法を使用することは、愚者の行いである』って。それで?あなたは何をしたいの?」
「何をしたいのか・・・。」
「呆れた、何も考えずに私のところに来たの?」
心底呆れたとばかりにため息をついて、白子が椅子に座り直しゆったりと足を組んだ。そして、下から上に紅子へ視線を動かすと、指で宙に演円を描く。紅子の上に光が降り注いだ。
「紅子、今あなたがレディ・ローズになれるように魔法をかけたわ。ほら、薔薇を見て。」
白子の突然の行動に驚き、動けなくなっていた紅子は慌てて、胸に下げている薔薇を胸元から取り出す。少し開きかけていただけの薔薇は満開となり、朝露に濡れているかのように輝いていた。
「白子!これどうゆうこと!?なんでそんなことを!」
「あなたこそ、レディ・ローズに相応しいと思ったから、早く美しく薔薇が咲くように魔法をかけたの。どう?美しいでしょ?私の薔薇よりもずっと。」
そうして、白子が胸元から出した白い薔薇は、元々の紅子の薔薇よりも少し開いている程度で止まっており、満開には到底及んでいない。
「そんなこと言われても、でも、これはあたしがやるべきことで・・・。そんな、あたしが自分の手で咲かせないといけない薔薇なのに。」
「それよ。」
混乱し、言葉が支離滅裂となってしまった紅子に、白子が言い放つ。
「それが、あなたがあの紫音先輩にしたことよ。」
「あ・・・。」
「自分の実力で勝負にでて、そして望んでもいない魔法でその真剣勝負に横槍を入れられる。」
紅子の顔色がどんどん悪くなり、ついには真っ白になってしまった。そして、口元に手を当てて、崩れるように座りこむ。
「どうしよう、白子。あたしとんでもないことしちゃった。ずっとね、漠然と謝れば良いって思ってたんだ。でもようやくわかった。これは何があってもあたしが手を出しちゃいけないものだった。あたし、紫音先輩に謝らなきゃ。」
「そうね、早く心から謝った方が良いと思うわ。」
「でもどうしよう、白子。あたし、紫音先輩に逃げられてて、それで・・・。」
「私の今回の依頼範囲は学校内よ。校外のことは管轄外好きにすれば良いわ」
その言葉に、勢いよく顔を上げた紅子の瞳には光が戻り始めており、希望を見出しているようだった。
「あとはそうね、いつものあなたもっと一直線よ。」
「一直線?」
「ええ、今のあなたはいらないことをグズグズと考えて後手に回ってる。でもこのままでは良くないと思っているのであれば、普段の思考に戻すことをおすすめするわ。」
「思考を元に戻す・・・。」
白子の言葉を繰り返したあと、何かを思いついたのか、表情は最初よりも晴れやかになる。紅子の様子に満足したのか、足を組み替えると閉じていた文庫本を開く。
「ほら、満足したなら早く行きなさい。同族の願い事を叶える趣味はないわ」
「うん!ありがとう白子。あたし、頑張ってくる」
善は急げとばかりに階段を走り降りていく紅子に視線を本へ戻そうとすると、慌てたように階段を駆け戻ってきた。
「忘れてた。白子!この薔薇!」
「あら、心配無用よ。それ、幻覚魔法だから。」
そう言って、白子が指を振ると満開であった薔薇は元の開きかけの蕾となり、胸元に収まっている。元に戻った薔薇をしげしげと眺めたあと、「あいがとう」と言ってまた階段をかけるように降り始め、今度こそ見えなくなった背中に、満足すると白子は視線を本に戻した。
その日の夜、紅子は自分のベッドに魔法で誰かが寝ているように、膨らませると箒を出して窓から外に躍り出た。今回は届出を出していない外出になるため、周囲を警戒しなが高度を上げていく。あの日のようなワクワク感はなく、緊張で心臓が大きく音を立てており、手には汗が滲んでいた。頬に当たる冷たい風でなんとか意識を前に向けているが、少しでも気を緩めれば引き返してしまうほど、行きたくないという気持ちと、行かなければいけないという気持ちがせめぎ合っている。
住宅街を抜け、一際大きい紫音の家に辿り着く。窓に近づくが、そこで紅子の手は止まってしまう。窓にかかるカーテンから灯りが漏れているのは見えていた。カーテンに映る影で、机に向かっていることが伺える。しかし、紫音とは約束などは取り付けていない。窓をノック下として、彼が出てきてくれるとも限らないというところまで考え、手が止まってしまった。
冷えた風が頬を撫で、マフラーを漂わせる。何度も手を握り窓に近づけて、離してを繰り返していた。
「いつまでそこにいるの。」
もう帰ってしまおうと箒を握り締めた時、窓がカラリと開き固い声が紅子に降り注ぐ。
「紫音先輩。なんで。」
「ずっと窓の外で動いてたら、流石に気になるよ。」
「そう、ですよね。」
なかなか次の言葉を生み出すことができず、口を開いては閉じるを繰り返している。
「紅子さん。何もないなら僕はもう寝るよ。君も風邪をひいてはいけないから、早く帰りなよ。」
「待ってください!」
窓を閉めようとする紫音を必死に絞り出した声で呼び止めた。
「あの、紫音先輩。今回のコンクールのこと、本当にごめんなさい!」
声と同時に、箒の上で大きく頭を下げる。
「あたし、先輩のこと何も考えられてなくて。ただ、先輩が今後も絵を描けるようにってことしか考えられてなくて。でも、こんなことしちゃいけなかった。先輩の努力してきた時間と、思いを台無しにしてしまいました。本当に、ごめんなさい。」
徐々に小さくなっていく紅子の言葉を紫音は黙って聞いていた。そして、頭を下げた体勢で静止している紅子をジィっと見ている。
紅子にとって長い沈黙が生まれる。
「顔を上げて。」
紫音の言葉に従って、ゆっくりと顔をあげると、バチリと視線が交わり、紅子はそこから逸らすことができなくなった。
「最初、僕の絵が金賞ってことを聞いた時は心から喜んだよ。だってあの絵には僕の人生が賭けられていたから。でもね、表彰式を見に行った時、銀賞になった子と圧倒的に差があるって一目でわかったよ。おかしいって。」
紫音の言葉を聞くにつれて、目に膜が張るのを感じる。
「困惑したよ。なぜこの絵が銀賞で僕の絵が金賞なんだって。次に湧いて出たのは怒り。だってどう考えてもこんなこと、魔法でもないと無理だから。」
ゴクリと乾いた喉に無理やり通した音が聞こえるようだった。
「あの日、紅子さんにこの怒りをぶつけたあと、冷静になって考えた。紅子さんは僕のためにやったんだって。でも、やっぱり僕の絵を信じてくれなかったんだって悲しくなった。それで、白子さんにお願いして紅子さんに会わないようにしてもらったんだ。」
瞳に張っていた膜はついに決壊し、涙が一筋溢れる。
「あたし、本当に余計なことを。」
「でもね、やっぱりこれは僕のために、僕が絵を描けるようにやったんだって思ったら、これは僕が信じて待てるほどの実力を紅子さんに示せていなかったのが、悪いんじゃないかと思い始めたのがついさっき。」
「先輩の実力は本物です!これは、あたしが信じられなかっただけで・・・。」
「だからね、紅子さん。僕もう一度コンクールに挑戦しようと思うんだ。
「ほ、ほんとですか!」
「うん。だからさ、明日相談室にお願いをしに行くから待っててくれないかな。」
涙を拭うように頬に指が滑る。
紅子は、固まってしまってしまった口角を無理やり押し上げ、笑顔を作ると力強く頷いた。
「はい!お待ちしています!」
紫音も満足そうに頷くと、そっと窓から一歩下がる。
「もう時間も遅いし、外も寒いから、お開きにしようか。」
そう言われ、紅子は自分の手が寒さで固まり初めていることに気づく。名残惜しい気持ちを押し殺しながら、帰るために箒を窓から少し離した。
「それじゃ、紅子さん。また学校でね。」
「はい、紫音先輩。また明日。」
挨拶を済ませると、旋回し帰る方向に箒を向ける。ゆっくりと薔薇館の方へ箒を進め始めたところで、肩越しに紫音の部屋を見ると窓を締めているところだったが、こちらに気付きにこやかに手を振っていた。
行きの重い気持ちは、いつの間にが消え去り、ぽかぽかとした何かが胸にじわじわと広がっていることに気づく。
もう一度箒を持ち直し、今度はしっかりと顔を上げて箒を進めた。
放課後、紅子は心臓が激しく動いているのを感じながら、相談室で待つ。黄乃も心配なのかチラチラろ忙しなく扉を見ている。3人目の相談者が帰ったあと、控えめに扉をノックする音が聞こえた。
「どうぞー。」
黄乃が入るように促すと、カラリと扉が開きそこには気まずそうな紫音が立っている。
「紫音先輩。お待ちしていました。」
「こんにちは、紅子さん。黄乃さんも久しぶり。」
二人に挨拶をして、紅子の前に置いてある椅子に座る。
「それじゃ、昨日行った僕からのお願い、聞いてくれる?」
「もちろんです。」
そわそわと願いを待つ紅子の姿を少し面白く思いながら、紫音はその願いを口にした。
「紅子さん。僕の絵のモデルになってくれませんか?」
「はい!・・・え?」
「ありがとう。」
「いや、ちょっと待ってください。あたしがモデルですか?」
「今回のコンクールのテーマは人物画でね。誰を描くか考えた時に、紅子さんの姿がよぎったんだ。だから、これが今回の僕の願い。金賞獲得のために、ぜひ協力してしてくれないかな。」
「良いんですか?あたしで。」
「あぁ、君を描きたいんだ。」
まっすぐとした目が紅子を射抜き、机に置いていた手を紫音の手がそっと包み込む。一言発するごとに、その手に力が籠っていく。だんだんと視線に耐えきれなくなり、顔に熱が籠るがここで視線を外してはいけないと一生懸命その目を見つめ返した。
「紫音先輩のあの素晴らしい絵に、あたしを加えてくれるんですか?」
「うん。」
「こんなに光栄なことはないです。その願い、花咲紅子がお受けします。」
「ありがとう。」
繋がっている手をグッと引っ張り上げ、紅子を椅子から立ち上がらせる。
「黄乃さん、早速今からデッサンをしたいんだけど、紅子さんを借りて行っても良いかな?」
黄乃はこの状況に目を輝かせながら、見ていた。紫音の問いに首を何度も縦に振る。紫音は嬉しそうに微笑むとそのまま紅子を連れて美術室に足を向けた。
「それじゃ、黄乃さん紅子さん借りていくね。」
「はい!紅子ちゃんの荷物はあとで届けますね!」
「へ!?あ、でも、相談室がまだ・・・。」
「今日はもう来ないって!大丈夫、片付けはしておくから!」
紫音に手を引かれながら、黄乃に背中を押され相談室から出されてしまう。
「じゃぁ、紅子ちゃんのことよろしくお願いしますね!あとで私も荷物を持って迎えに行きます!」
二人が廊下にでたことを確認すると、黄乃は手を振りながら相談室の扉を閉めた。
「さ、美術室に行こうか。」
笑顔のまま、鼻歌でも歌いそうな上機嫌で紅子の手を引いたまま美術室に向かって歩き始める。その後ろ姿を眺めながら、紅子は必死に足を動かした。美術室にまで着くと扉を開け、中に入るように促す。美術室内は相変わらず人がおらず、窓からは陽の光が差し込んでいた。
「椅子持ってくるね。」
紅子の手から紫音の手が離れる。熱を分け合っていた手が離れたことで、手のひらにひんやりとした風が当たった。
紫音は椅子を持ってやってきた。そして、ちょうど窓から入る陽が差し込む位置に椅子をおいた。
「ここに座ってくれるかい?」
「はい。」
ぎこちなく椅子に座ると、向かいにおいた椅子に紫音も座り、イーゼルを立てその上にスケッチブックを置くと鉛筆を手に取り、カッターで削る。字を書くには異様に長く芯がでたところで、削るのをやめ、紅子に向き直った。
紅子の表情が硬くなっていることに、少しおかしそうに笑うと、柔らかく口を開く。
「緊張しないで、いつも通り、って言っても難しいか。」
「は、はい。モデルなんて初めてで、どうしたら良いのか・・・。」
「じゃぁ、少しお話ししようか。」
そうして、今日の授業の話や昨日の夕飯の話、この前黄乃と遊んだ話など、たわいもない話をした。少しづつ紅子の表情は和らぎ、自然体の笑顔が漏れ始める。
ゆっくりとその表情をスケッチし始めた。紅子の楽しそうな話し声とそれに相槌を打つ紫音の柔らかい声、そして鉛筆の滑る音が美術室をいつの間にに茜色の光が包んでいる。
「紅子ちゃん!荷物持ってきたよ!」
美術室の扉を静かに開き、黄乃が荷物を持って入ってきた。二人は楽しげに話をしている様子を見て、安心したように肩を撫で下ろし、静かに入り口に立つ。
紫音の肩越しに、黄乃の存在に気がついた紅子と目が合った。
「黄乃ちゃん、荷物ありがとう。」
「ううん。でも二人とも仲直りしてよかった。」
「喧嘩していたわけじゃないけどね。僕が一方的に逃げてただけだしね。」
「いや、それはあたしが・・・。」
「ふふ。」
二人のやりとりに黄乃から笑いが溢れる。
「二人とも同じようなこと言ってるから、おかしくって。」
紅子と紫音はお互いに顔を見合わせてた後、どちらともなく吹き出し、笑い始めた。
「紫音先輩。今回のこと、本当にすみませんでした。」
「いや、その話は昨日。」
「いえ、元はと言えばあたしが余計なことがしたのが悪いんです。なので、もう一度謝らせてください。」
立ち上がり、紅子が深く頭を下げた。紫音は鉛筆を置くと、紅子に近づき肩にそっと手を置くと頭を上げさせる。
「うん、でも、これで本当に最後だよ。僕もカッとなってしまったし。」
「いえ、それはあたしが。」
「だから、それはもう終わり。」
「はい。」
そうして、視線が交わると二人はまた笑った。
談笑している間に、茜色の日差しも消え、外は暗くなっている。紫音がイーゼルを片付け始めたのを見て、紅子は椅子を片付けた。黄乃が持ってきてくれたバックを受け取り、三人で薄暗くなった廊下を歩いて、玄関へいく。
紫音とは帰る方向が反対のため、校門の前で「また明日」と挨拶を交わした。
すると、紫音は紅子の手を掴んだ。その手を、昼間の相談室でのように両手で包み込む。
「紅子さん。今日は本当にありがとう。今度こそ、僕の絵で金賞を取るから、どうか見てて。」
紫音の言葉に、真剣な面持ちで紅子は頷くと、反対に紫音の手を空いていた手で包み込んだ。
「はい、応援しています。今度こそ、心から信じて。」
「あぁ、君のその応援に応えられるよう精一杯頑張るよ。」
翌日の放課後、紅子の姿は相談室にあり、いつも通り相談を受けていた。
「ねぇ、紅子ちゃん。紫音先輩のところに行かなくて良いの?」
「紫音先輩には聞いたんだけど、もう下書きは昨日のスケッチで住んでいるから、今日は大丈夫って。」
「でも、前回は作品が完成するまで美術室に通ってたじゃない?今回も通うのかなって。」
「ううん。今回はね、ジッと待つことにしたんだ。」
「そっか。」
「でも、気になるから帰りに美術室、覗いても良い?」
その紅子の不安そうな顔に、黄乃は少し安心したように笑いながら「いいよ。」と頷く。
すっかり日が沈むのが早くなり、薄暗くなった廊下を二人で並んで歩いて美術室へ向かう。数日前とは違い、そんな薄暗い廊下も紅子には紫音の絵に続く、輝いた道に見える。
美術室の扉をノックしたそっと開けると、紫音はスケッチブックを傍に置いて、キャンパスに下絵を描いていた。扉の開く音に紫音が気がつき、鉛筆を置き振り返る。
「すいません紫音先輩。本当は来ないようにしようかと思ったのですが・・・。」
「ううん。来てくれて嬉しいよ。」
紫音の手元を覗くと、下絵の自分と目が合った。その姿は、本当に自分なのかと思うほど柔らかい笑顔を浮かべている。
「これが、紫音先輩から見えるあたしなんですね。」
ぽつりと紅子の口から漏れた言葉に、紫音は照れるように頬をかく。
「なんだか少し恥ずかしいね。」
「すごい!紅子ちゃんめっちゃ綺麗!」
黄乃も興奮したように絵に近づいて、覗き込んだ。紅子は相変わらず食い入るように絵を見つめ、最初の一言以上に声を発することはない。
「紅子さん。黄乃さん。明日からこの絵が完成するまで、美術室には来ないようにしてくれるかな。」
「え・・・。」
紅子の胃に重いものが降りてくるのを感じた。表情に出てい他のだろう、紫音が慌てて紅子の考えを否定する。
「違うんだ。この絵は完成したものを君たちに見てほしいって思ったから、次に見るのは完成まで待って欲しいんだ。」
紫音の言葉にホッとしたように、紅子の表情が和らいだ。
「わかりました。」
「楽しみにしてますね。」
紅子の頷きに、黄乃も続いて返事をする。そうして、今日も三人で廊下を歩いて帰路についた。
黄乃と別れて薔薇館に入ると、エントランスの階段に白子が座っている。本を手に持ち、足を組んでいた。紅子が帰ってきたことを確認すると、本を閉じて立ち上がり、紅子の目の前までくる。
「仲直り、したようね。」
「うん。白子のおかげだよ、ありがとう。」
「私は何もしてないわ。仲直りのために勇気を出して行動したのはあなたでしょ?お礼を言われることはないわ。」
「でも、その勇気を出すために背中を押してくれたのは白子だから。ありがとう。」
紅子からの言葉に、白子は目を見開くがゆっくりと口角をあげた。
「そう。それならそのお礼、受け取っておくわ。」
そう言うと、白子はそのまま自室に帰っていく。見送った後、紅子も自室の廊下へ足を進めた。
階段の上には、手すりにもたれかかる影が一つ。その美貌がさらに輝くような笑みを浮かべ、楽しそうに二人の様子を眺めていた。
「そうそう、二人で切磋琢磨して、成長していきなさい。小さな薔薇たち。貴方たちの成長が楽しみだわ。」
その日からそわそわしながらも、美術室には近寄らずまっすぐ帰る日々は続く。今日も、施錠して部屋を出るが、どうしても視線は美術室の方向を見てしまう。
「紅子ちゃん、見過ぎだよ。」
その言葉に紅子はサッと黄乃を見るが、彼女は微笑ましいと言った表情で紅子を見ている。黄乃の表情に少し恥ずかしさを感じ、気持ち足の運びが早くなった。
「やっぱり気になる?」
「うん。でも、完成までダメって言われたんだから我慢する。」
グッと拳を握り力強く決意を新たにする。黄乃もうんうんと頷いた後、ふと思い出したように紅子に聞く。
「そう言えばさ、紅子ちゃん。紫音先輩のことやっぱり好きなの?」
「へ?」
黄乃からの突然の言葉に、紅子は持っていた上履きを手からポロリと落とす。
「そ、そんな。違うよ!あたしは純粋に紫音先輩の絵が好きなのであって。」
「絵だけ?」
「絵だけだよ!それに、あたしは試験中だよ?そんな恋愛なんて・・・。」
「人を好きになるのに、タイミングは関係ないんじゃないかな?いつ、誰を好きになったって、それは制限されることではないと思うよ。」
「それでも、あたしは試験中。あたしの後ろには、この試験に臨めなかった他の子たちがいるんだから、気を緩めるわけにはいかないんだ。」
黄乃は納得が行かないという表情をしながらも、それ以上何か言うことはなかった。
それから一ヶ月後、校庭にはチラチラと雪が見られるような季節が訪れる。相談室は暖房をこれでもかと付けて、窓や扉を閉め切りぬくぬくと二人並んで窓の外を眺めていた。窓の外には寒い中、野球部がグランドをに列で走っている。寒いためみんな早く帰るのか、ここ最近の相談者は少ない。宿題もほとんど終わってしまい、やることがなくなってしまったので、今日は終わりにして帰ろうかと、紅子の頭をよぎった時突然扉が開いた。
「紅子さん!完成したよ!」
飛び込んできたのは紫音だ。普段の彼からは想像できないほど興奮しており、いつもなら数回ノックをした後、静かに入ってくるところをノックもせずに入り、その服装は完成した直後に走ってきたのだろう、絵の具が飛んだエプロンをつけたままだ。
「さぁ行こう!ぜひ見てくれ!
絵の具で濡れた手で紅子の手を取った。そのまま手を引くようにして相談室から出る。今回は黄乃も後に続いて走る。パタパタと走る三人は目立つのだろう、通り過ぎる生徒たちは一様にこちらを振り返った。美術室に到着し先ほどとは打って変わって、緊張した面持ちでドアノブに手をかける。ゆっくりと扉を開けて二人を室内に入るように促す。二人もその空気に飲まれるように、ゴクリと唾を飲み込み美術室に一歩踏み出した。
部屋の中央にはキャンパスが一つ置かれている。そのキャンパスに向かって、一歩一歩ゆっくり歩み寄った。目の前に立ちそれを眼に写す。
最初に飛び込んできたのは、星が散らばる夜空だった。冷たい夜のはずなのに、星の光は暖かみを感じさせる。夜の下にはその星空を瞳に写して、心底幸せそうに、楽しそうに笑う紅子の横顔が描かれていた。
美しい絵への興奮と、そこに写るのが自身であるという少しの嬉しさで紅子の頬には薄っすらと赤みが刺している。
「どうかな。」
「あたし、先輩からはこんなに美しく見えてるんですね・・・。」
「うん。これは僕の見えてる世界。僕の持てる力を全て出し切った傑作だ。」
紫音が静かにキャンパスの側面を撫でた。その視線は柔らかく、温かいものだった。
「取れますよ、金賞。」
紅子の口から溢れるように言葉が出てくる。
「今度こそ、先輩の絵が金賞を取ります。あたし、信じて待ちます。」
紫音の目を紅子は正面から、射抜くように見つめた。
「うん。ありがとう。」
翌日の午後、絵はコンクールへ出展するため、トラックに積み込まれる。その様子を紅子はジッと窓から眺めていた。その両手は胸の前で組まれ、指先が白くなるほど強く握られている。
黄乃は紅子の横で手のひらを合わせて、「金賞。金賞。」と何度も呟いていた。トラックの背中が見えなくなったところで、息をフッと吐き出し、力を抜く。トラックの進んだ報告をもう一度見ると、踵を返していつもの相談に戻った。
週末、紅子はベッドに寝そべり、自室の窓から空を眺めている。思いを馳せるのはあの絵の中にいた自分だ。紫音の眼に写る自分の姿は暖かく、自惚れるほど美しかった。そして、あの絵からは、自分に好意を持ってくれているかもしれないと、思えるほどの感情が漏れているものだった。思い出すと自然に涙が出てくるようだ。
「もし、紫音先輩があたしのことを好きだと思ってくれているのなら、あたしはどうしたら・・・。」
あの日美術室で絵を見て、黄乃に「制限されることではない」と言う言葉をかけられ、そんな考えがずっと頭の隅に居座っている。
「あぁー。だめだ!どうしたらいいのぉ。」
紅子は頭をぐしゃぐしゃと掻いた後、足を振り上げてベッドから起き上がると、気分転換に指を振ると、コルクが抜けようなぽんと言う軽い音とともに、ティーセットが現れた。ティーポットから琥珀色の紅茶が注がれ、横からティーポットを押し除けるように、今度はミルクピッチャーとシュガーポットが現れ、自ら中身を紅茶に入れる。カップが紅子の前に滑るように到着すると、紅子はカップの上でかき混ぜるように回す。紅茶が波打ち、ゆっくりと琥珀色と白乳色が混ざり合う。完成したミルクティーをゆっくりと口に運び、味わうように飲み下した。
口の中にミルクの甘みが広がるのを感じながら、紅茶の中に揺れるミルクの層を眺めていると、水面がゆっくりと揺らめき、ぼんやりと人間の輪郭を作る。徐々にはっきりとしてくるそれを怪訝そうに見ていると、そこには紫音が写し出された。
紅子の肩がびくりと跳ね上がり手からカップを離してしまう。床にぶつかり、中身をぶち撒けてしまうと覚悟したが予想に反し、カップは液体ともどもピタリと静止する。そのまま紅子の目の前まで浮き上がり、逆再生のように液体がカップに戻ると、サイドデスクにわずかな音を立てて置かれた。
カップをジッと眺めていると、部屋のドアが勝手に開き、白子が入ってくる。
「白子・・・。」
「休みの日は、庭でウンウン唸りながら魔法の練習をするあなたが、部屋から出てこないから様子を見に来たわ。あなた、なんて顔してるのよ。」
開きっぱなしの扉に体を預けた白子が少し驚いたようで、ぴくりと眉を顰めた。
紅子は何も言わずに、両膝を立て白子の視線から逃げるように顔を埋める。
「いつまでそうやって籠ってるつもりなの?」
「考えがまとまるまで。」
「その考えは、そうしてシーツに包まっていればまとまるようなものなの?」
「わからない。」
「そう。」
紅子には、白子が何を言いたいのかはさっぱりわからなかったが、なんとなくここに籠っているだけでは、解決することはないのではという考えがじわじわと湧き出していた。
「ずっとこうしてて、考えがまとまらないなら、いつも通り庭で魔法の練習でもしてみたら?案外良い考えが浮かぶかもしれないわ。」
白子はそれだけ言うとさっさと部屋から出ていってしまう。開け放たれたままの扉を見つめた後、紅子は徐に立ち上がり扉へ向かった。先ほど自分でぐちゃぐちゃにしてしまった髪の毛を手櫛で整えると、敷居を一歩跨いだ。そのまま、足は軽やかにスルスルと庭の方へ進んでいく。建物を出ると、肌に刺さるような冷たい風が紅子の顔に吹きかかり、先ほどまで熱に浮かされていた頭を冷ますように通り過ぎていく。足は止まることなく進み続け、薔薇館の裏手にある大きな庭にたどり着いた。広いその庭は色とりどりの薔薇が咲き、むせかえるほどの薔薇の香りが充満している。
庭に来たわ良いものの、特に何かをすると決めたわけではない赤子は、立ち尽くしていたが、やがて近くにあったベンチに座った。遠くの薔薇にぼんやりと焦点を合わせながら、ただ座ってみたが白子の言うように何か良い考えがそう簡単に浮かぶわけもなく、ただただ肌寒い中で時間を消費している。突然、ベンチの脚がギシリと沈み込む音がした。
のろのろと横に視線を動かすと、そこにはキラキラと煌めく生地で彩られらロングドレスが目に入る。手にあの大きな杖は持っていないが、隣に座しているのは間違えもしない、薔薇館の当主、ローズだった。
「ご機嫌よう紅子さん。」
「レディ・ローズ!ご、ごきげんよう。」
「ふふ。そんなに硬くならなくても良いわ。私はただの休息にきただけだから。」
「は、はい。」
ローズは、紅子の肩に両手を添えると微笑む。
「そんなに緊張しないで。ほら、肩の力を抜いて。そう、上手よ。」
ローズの言葉が耳に入るにつれて、少しずつ強張っていた方が下がり、身体から力が抜ける。
「何か、悩み事があるんでしょう?」
「はい・・・。」
耳に入る言葉に、答えなければいけないという意識だけが、頭の中を侵食していく。
「それは、何かしら。教えてくれる?」
「はい。あたし、紫音先輩の絵が好きです。でも、あたしを描いてくれたあの絵を見た瞬間。彼から見える自分を見たときに、それだけではないと気づいたんです。」
視線でそのまま続けるように言われる。
「でも、あたしは試験中の身です。この気持ちを外に出すことはできません。だってこれは今じゃない。」
そこまで紅子が吐き出すと、頭の中にかかっていた霧が晴れていく。気がつくと、目の前でローズが微笑んでいた。
「とても綺麗で、とても可愛い悩みだわ。」
その言葉に、自分は全てをローズに話してしまったことに気がついた赤子は、耳を赤くしながらみ、邪な気持ちを持って要ることをローズに知られたことに自然と頭が下がっていく。
「良いのよ。あなたはまだ若く、未熟なんだもの。色々試してみると良いわ。」
「試してみる?」
「えぇ。その気持ちが必ずしもこの試験に悪い影響を及ぼすかなんて、誰にも予想はできないわ。それは試してみないと。それに、この薔薇館にはたくさんの優秀な魔女たちがいるわ。試してみて、困ったら聞いてみれば良いのよ。試験は始まったばかりよ。色々試してみて、貴方なりの正解も導き出せれば良いの。」
そう言うと、ローズは紅子を立たせ、その背中を押した。つんのめるように前に一歩踏み出せば、そこは先ほどまで籠っていた自室だった。
「試してみる。」
ローズの言葉を反復すると、なぜだかストンと自分の中で腹落ちする。急いでスマホを手に取り、黄乃へ電話をかける。数度のコール音のあと、出てきた黄乃の名乗りも聞かずに紅子は口を開いた。
「黄乃ちゃん!あたし、紫音先輩と話してみようと思う!」
「え!紅子ちゃんそれって!」
黄乃との電話を切ると、拳をグッと天井に向けて突き上げる。そして、その拳を力強く見つめた。
週が明けた月曜日、相談室に行くと紫音は前回と同じように扉の前で待っていた。
「やぁ待ってたよ。」
にこやかに笑っているような紫音だが、表情に微かな緊張が伺える。
「紫音先輩!こんにちわ。結果出たんですか?」
紅子は歩み寄り、紫音に尋ねた。すると、紫音は手に持っていた大きめのタブレットを見せる。
「それをみんなでみようと思って、来たんだ。ほら、先生にタブレットも借りてきたんだ。」
三人は相談室の中央で肩を寄せ合うようにして、タブレットを覗き込んだ。結果発表のページをまずは目を瞑ってタップする。そうっと数ミリずつ紫音が瞼を押しげた。ぼんやりと見え始める文字にさらに開く。半分ほど押し上げたところで、一気に目を見開いた。
「金賞・・・。金賞だよ!」
興奮気味に叫ぶ紫音に二人も目を明ける。そのページには「金賞:木田 紫音」の文字がはっきりと映し出されていた。そして、今回は受賞作品も公開されているため、紫音は一つ一つ丁寧に開き中を吟味していく。
「うん。うん。僕の絵が金賞だ!紛れもない僕の絵が!」
上を向いた紫音の目からは涙が溢れ、一筋また一筋と目尻から頬を通り床へと吸い込まれていく。
「おめでとうございます。紫音先輩」
紫音に向き直った紅子の頬にも濡れた線が一筋通っており、その目は濡れていた。
「あぁ。ありがとう。君のおかげだ。本当にありがとう。」
両手で紅子の両手を包み、その手をおでこに押し当てて、紫音はしきりに礼をいう。そして、その言葉は少し大きめの光となり、紅子の薔薇に収まった。薔薇の花びらはゆっくりと外側に動き出し、いつもより広がったようだった。
そのままお互い泣き始めてしまった二人に、黄乃は近づくと紅子の方を叩く。
「ほら、紅子ちゃん。やるんでしょ。」
黄乃の言葉にハッと顔をあげると、それに続くように紫音も顔を上げた。そして、今度は紅子が紫音の手を包みこむ。
「紫音先輩。聞いてほしい話があるんです。」
「話し?」
「はい。少し長くなるかもしれません。上手に話すことができないかもしれません。でも、聞いてくれませんか?」
「うん。もちろん。」
少し濡れた瞳で見つめる紫音の手に力を込めて握ると、一度深呼吸をして、紅子は口を開いた。
(あぁ。今日は素晴らしい日だ。)
レディ・ローズに憧れて 桶谷 雨恭 @ok_ukyou
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