第35話 祭りの後

 カチッ……カチッ……カチッ。


 コスプレ会場から帰った日の深夜、私は自室で今日撮ってきたコスプレイヤーさん達の写真をパソコンに取り込んでいた。


 スマホで見るのも良いけど、特にお気に入りのものは紙にも残したいからと500枚近くある写真からプリントアウトするものを選ぶ作業に没頭すること2時間。


 気がつけば、午前3時になっていた。

 このパターンは、もう寝るのは諦めた方が良いヤツだ。


 3時間とか中途半端な睡眠を摂るよりも、20時くらいまで起きて、そこで気絶するように寝た方が生活スタイルも崩れないで済む。


 そう決めて、再びパソコンに向き合う。

 画面には、『何がなんでも恋がしたい!』のメインヒロインである愛佳ちゃんのコスプレをした佐々山さんが写っている。


 いつもの5倍くらい眩しい笑顔を向けてくれている。これが、プロモードに入った佐々山さんの実力である。


 愛佳ちゃんは髪が青色のツインテールで、女性から見ても見惚れてしまうスタイルの良さだ。というか、この細身でこの胸の大きさはあり得ない。

 要するに、二次元だから成立する存在だ。


 そんな神に等しい存在を、佐々山さんは完璧に再現している。


 特に、推定Iカップのタワワな胸は見事だ。


 普段の佐々山さんは、細い体型に適した控えめだけど愛らしい胸なのに、どうしたことかと本気で疑問だったので不躾ながら昨日のコスプレ会場で本人に聞いてみた。


「そのおっぱい、どうやってるの?」


 胸といえば良いのに、何故か正式名称はそっちのような気がしての愚行である。


 そんなキモい質問をした私を通報するどころか、「おっぱいには、こだわったから注目してくれて嬉しいです!」とキラキラした目で答えてくれる、天使こと佐々山さん。


「おっぱいは作れるんですよ!」


 なんと。

 Cカップという中途半端な胸の持ち主としては興味深い話だ。


「やろうと思えば、いくらでも大きくできます」


「なん……だって……」


 あまりのパワーワードに驚愕する。


「そ、そんな呪物みたいなものにまで手を……。佐々山さん」


「いやいや。フツーにヌーブラを活用してるだけだよ」


 そこからの佐々山さんの説明は、専門用語だらけで私ごときの頭では全く理解できなかった。

 しかし、それを語っている佐々山さんの表情は真剣そのものだった。

 おっぱいを性的に捉えずに推しのキャラクターを再現するのに必要なアイテムと割り切っている匠の目だ。


「……ララ。そんな顔するんだ」


 それまで、黙っていた田淵さんがボソッと呟く。説明に夢中の佐々山さんは気づいていないみたいだけど、ほんの少し感動しているように私には聞こえた。

 


\

「アンちゃん? まだ起きてるの?」


 色々と刺激的だった今日を振り返っていたら、自室の外から姉さんの声がして我に帰った。


「あぁ。ごめん。もうすぐ寝るね」


 過保護な姉さんのことだ。寝不足を心配してくれているのだろう。

 おそらく、私が寝るまで姉さんは安心してくれない。


「あぁ。いや、アンちゃんが大丈夫なら良いんだよ。でも、身体だけは気をつけてね」


 部屋から遠ざかる足音。


 あ。

 そうだった。


 鹿島さんのお泊まりイベント以来、姉さんの私への干渉は少なくなったのだった。

 少しくらい放っておいても大丈夫だと、信頼してくれるようになった。


 それが嬉しくもあり、私が姉さんの1番の関心事ではなくなったことに少しの寂しさがある。


 そんな自己矛盾に失笑しながらパソコンに向き直り、推しのコスプレイヤーの写真を吟味する。

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ギャルと友達になりたい! ガビ @adatitosimamura

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