番外編2 狭陽奈は優しさを否定する
※ 本編終了後。陽奈視点のお話
青森に戻って半月。もう少しで松葉杖生活ともお別れできそうなのはありがたいが、気分は全然晴れないままだった。
あれからグローリー6のみんなとは連絡を取ってない。
取れるわけがなかった。どの面下げて何を言えというのか。
一応なごみちゃんから何通かメッセージは来たけど、まだそれを開く勇気もわかなかった。
◆
「……ねえ、
「え、ああ、ごめん……何だっけ?」
今年初めから通い出した
ぼんやりと頬杖をついていたあたしは声のする方に目を向けた。ここへ来てから出来た友達の一人である、クラス委員の月ちゃんこと
「もう、しっかりして。あんた旅行先で事故に遭ってからぼーっとしてらことが多いよ?」
「ごめんね月ちゃん。何の話だっけ」
「修学旅行の班の話だば! 私と陽奈、それにチッヒーとセーラの四人って提出したから」
チッヒーとセーラもこっちでの友達だ。ちなみにチッヒーは
「そっか、ありがと月ちゃん。この四人なら楽しくなりそうだよね」
「そうだよ、楽しまなきゃ。嫌なことは忘れでさ」
月ちゃんの言うとおりだ。切り替えないと。暗い気持ちを修学旅行まで引きずっちゃいけない。
友達だけで構成された班だったら絶対楽しいに違いないのだから、何も心配することはない。
そのはずだったんだけど。
◆
その数日後。
「はぁ!?
微妙そうな表情の月ちゃんから報告を聞かされて、セーラが信じられない、と言わんばかりに大声を上げた。
「なんで!? うちら四人の班で行くんでねの!?」
「でも先生から頼まれちゃって……」
「それって月ちゃんがクラス委員だから押しつけてきただけじゃん! ダメだよ、こういうのはちゃんと断らねと良いように使われちゃうよ」
セーラがプリプリと怒っている。チッヒーの方も不満げだった。
「まあ、修学旅行の班は四人一組だばって、うちのクラスの女子は十三人だからね。どしたって一人はどっかの班に入れることになってまると言うか……」
「冷静に言ってら場合じゃないよ、月ちゃん。問題はどうしてぼっちで浮いてら白糸先輩をこっちに押しつけられなきゃいけないのか、だば」
白糸先輩、というのは今年になってうちのクラスに編入してきたクラスメイトで、フルネームは白糸ミズキと言う。
去年いじめが原因で一年ほど学校に来れなかったのを、留年という形で今年復学した人で、学年は一緒でも一つ年上なのである。だから先輩。
色々訳アリすぎてみんなどう接したらいいのか分からず、本人も無口というか、人と話している所を見たことがない。もちろん、あたしも一度も喋った事がない。
そんな感じで白糸先輩はクラスで存在感を出すことなく浮いていた。
そういう人をいきなり同じ班に入れろと言われたのだ。みんな困惑するしかなかった。
「よし、先生に抗議しにあんべ、抗議!」
「え、ちょっとセーラ!?」
「え、じゃないよ月ちゃん。みんな白糸先輩ど一緒の班でもいいわけ?」
セーラ以外の全員が目を反らす。少なくとも歓迎はしていない空気だった。
◆
「ええー……まさか拒否られるとは思わねがったど」
放課後。あたしたち四人は担任の
「うちらに押しつけねでくださいって言ってるんです。他の班が引き取ればいいじゃないですか。なんでうちらなんです?」
「そうは言っても、残りの女子の班は女王気質のギャル集団と超暑苦しい運動部集団だど。どう考えてもお前らの班が一番マシだろ」
理由がまさかの消去法だった。確かにどちらの環境もぼっちの人には厳しすぎる。あたしだってちょっと嫌だ。
「だからって、なすてうちらがただ一人のために犠牲にならなきゃいけないんですか」
セーラがしぶとく食い下がる。他の二人も同じ意見のようだった。
それを見ながら、ふと一年くらい前のことを思い出す。正確に言えば
あの時と同じだ。あの時、あたしはあの子一人に自分が我慢し続けるのは不公平で理不尽だと思ってた。
だから、その不公平と理不尽を全部あの子に押しつけた。そもそもこっちは被害者で、悪いのはあの子なんだって。
「せっかくの修学旅行なのに、人の面倒なんて見たくないし」
「面倒を見ろどは言ってねぇ。班に入れでけと頼んでいらだけだ。普通にしていればいい」
「でも変に優しぐして懐かれたらめんどいじゃん」
確かにセーラの言うとおり、好きでもない人間に懐かれるほど迷惑なものはない。
黒小路さんをグループから追い出してみんなで無視を決め込んだ時も、空気の読めない彼女はそれでもしつこく話しかけてきた。
たまに気を引きたいのか、食いつきそうなイベントの話を持ってきたり、自作のイラストとか見せに来たけど、全部全部無視した。
相手にされなくてすごすごと去って行く彼女の姿を見て、嘲笑したことさえあった。その時は自分の行動に何の疑問も持たなかった。
「だけど、そもそも」
そう言いながら挙手したのはチッヒーだった。
「そもそも、白糸先輩は先生任せで何もしてねぐね? 自分の事なんだから自分で班に入れてと頼みに行くのが筋でね?」
「まあ、確かにそれは一理あるの」
真壁先生がうんうんと頷いた。
「で、それは友達に裏切らいでいじめで心が病んで丸一年休学したった人間にそればやらすのはどれだけ困難か分かった上で言ってらのか?」
先生の言葉に心が殴られた感覚に襲われた。
黒小路さんは、学校には普通に来ていた。
あたしたちと和解することを諦めてからは、あの子は誰とも関わらなくなった。
その時はやっぱり今のチッヒーと同じ意見で、自分から動こうとしないあの子が弱いから悪いんだと思っていた。
あれは元々弱かったんじゃない。弱らせてしまったんだ。その原因を作ったのは間違いなくあたしたちで。
「ねえ、ヒナち。あの子、ヒナちに何か悪いことした? どうしてあんな事する前に少しでもスズと話し合おうとしなかったの? なごみちゃんの話はちゃんと聞くくせにスズの話はどうして聞けなかったの? スズは、一度たりともヒナちの事を悪く言わなかったよ」
脳裏に、まなやんの悲痛な声が響く。
あたしは、あの日初めて黒小路さんだけでなく、まなやんも傷つけていたことを思い知った。
どうして気付かなかったのだろう。自分だけが傷ついていると勘違いして、本当は相手の方がもっと傷ついているということに。
「……陽奈? 顔色悪いよ?」
月ちゃんがあたしの顔を心配そうに覗き込んできたので、慌てて「大丈夫」と返す。
「月ちゃんは、やっぱ白糸先輩入れるの反対?」
「……わがまま言うならやっぱりこの四人の班がいいな。あの人のことよく知らないし」
結局三人とも同じ意見。
白糸先輩は異物としてしか見られていなかった。
本人は悪いことをしているわけではないけど、邪魔だから。要らないから。話すだけ無駄だから。
そうやって、相手のせいにして。
……あの日のあたしは何様のつもりだったんだろう。
「うーん、おめだづがそこまで言う以上、他の方法ば考えるが」
「待ってください、先生」
気付いたら、あたしはそんな事を口走っていた。皆の視線が一気にこちらに向いたのでちょっと気後れする。
だけど、止まっちゃうわけにはいかない。
「……一度、白糸先輩と話をさせてください」
とたんにチッヒーとセーラが「はぁ!?」「なんで!?」と声を上げたけど、敢えて空気を読まずに続けた。
「あたしは、多分他のみんなもだけど白糸先輩とろくに話したことがないから、どんな人かも分からない。……もしかしたらいい人なのかもしれないし」
「でもあの人確実に根暗じゃん。いじめられたのもそれが原因なんじゃ」
「多分逆だよ。根暗だからいじめられたんじゃなくて、いじめのせいで根暗になったんだよ。それにいじめられる原因なんて加害者のさじ加減でどうにでもこじつけられるよ。相手の欠点羅列して排除するだけだもん」
多分、白糸先輩と黒小路さんは全然違う人種だと思う。雑に重ねるのは失礼かもしれない。
でもこのままだときっと同じ過ちが繰り返されてしまう。友達が、あたしと同じ過ちを犯してしまう。
こんなのはもう、繰り返しちゃいけない。
だからこそ、今度こそ、変わらなきゃ。
「……もちろん向こうがあたしたちとは嫌だって言ったら諦めるけど、まずは話してみないと何も始まらなくない?」
◆
「……まさか陽奈がそった事言うなんて」
結局まさかのまさかで、あたしの意見が通って抗議が撤回された。
幸いにも三人はあっさりあたしの意見に乗ってくれて、明日にでも白糸先輩に打ち合わせも含めて色々話すことになった。
「なんか、すごくごめん」
「いいよ。うちらもちょっとカッとなったったもん。最初からちゃんと本人ど会話すれば良かったのにね」
改めて考えても対話が大事だというのに、どうしてすぐにそういうのを忘れてしまうんだろう、あたしたちって。
「でも陽奈って優しいとこあるじゃん」
「あたしは、優しくないよ。謙遜でも何でもなく」
そう、こんなのは優しさとは言わない。
強いて言うならこれは反省と謝罪のための第一歩だ。
あたし自身が変わらなきゃ、そこに何の説得力もない。
それが正しいのか分からないけど、ずっとクズのままでいるよりは遙かにマシだと思えた。
「で、白糸先輩にどう切り出す?」
「まずはお昼誘ってみるとか?」
「お昼ついでに自由行動のプランって言えば多分乗ってけるんじゃない?」
早速ちょっとした作戦会議が始まった。
案外三人とも楽しそうだったのを見て、安心する反面少し心が痛む。
もしかしたら
怪討人と六分の一のユカイ魔 最灯七日 @saipalty
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