テクノロジーを無駄遣い

@iba_tofu

超純水を無駄遣い

北海道・富良野のはずれ、白樺の森に囲まれた一軒の農家に、奇妙な看板が立っている。

 『超純水農場 飯葉ファーム』


 看板をくぐって進むと、敷地には無機質なステンレスのタンクが並び、何やらラボのようなガラス張りの温室が見える。ここで農業を営むのが、28歳の青年・飯葉だ。農家でありながら、彼の趣味はハイテク投資と論文漁り。夜な夜なネットにかじりつき、海外の学術データベースから最新のAI研究や量子計算の記事を読み漁る。ある夜、彼はとある論文に目を止めた。


 「超純水の細胞作用における観察結果」

 ――内容は難解だったが、要するに「限りなく純粋な水は、作物の細胞レベルの成長に特異な影響を与える可能性がある」と結論付けていた。


 「やるしかねぇ。」


 飯葉はさっそく数百万円を投じ、工業レベルの超純水生成装置を導入した。地下水をRO膜でろ過し、イオン交換し、紫外線で殺菌、最後にガス除去――。一超純水が一滴ずつ、日々静かにタンクに貯まっていく。


 彼はこの超純水でトマトやブルーベリーを育て始めた。初めは苦労した。超純水は無菌すぎて、植物が逆にストレスを感じる場面もあった。だが、土壌と肥料のミネラル設計を試行錯誤し、ついに「奇跡の果実」が実った。


 糖度16度を超えるトマト。アントシアニン含有量が通常の3倍のブルーベリー。さらには、切った瞬間に“音がする”と評判になったレタス。


 「飯葉ファーム」の名は瞬く間に広まり、主な顧客は海外の富豪たちとなった。ドバイの石油王、シリコンバレーの億万長者、ロンドンのヘッジファンドの女王――皆、こぞってこの超純水農作物を購入した。需要が過熱し、ブルーベリー1粒の価格は10万円にまで跳ね上がったが、飛ぶように売れた。


それがSNSで拡散されると、超純水農業は瞬く間に世界中の農場で取り入れられ、超純水農作物は富裕層の間で大ブームとなった。

しかし、その裏で怪しいビジネスも広がっていった。

本当に超純水を使っているかどうかは、見た目ではわからない。

「不純物のない“ゼロ・ウォーター”を使用!」

──そんなキャッチコピーが氾濫した。


中には、水道水をRO膜に1回通しただけの水を「超純水」と称して出荷する業者も現れた。SNSには、どこかで見たような“ゼロ・ウォーター”ラベルの偽物が並び、評論家たちはその真偽を巡って口角泡を飛ばした。


飯葉は、静かにそれを見ていた。

彼の農場では今も変わらず、僅かなの不純物も許さぬ工程で超純水の精製を続けている。その水で育った作物は、まるで内部から光を放つように美しい。

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