令和の米騒動から見えてくる消費税の欠陥 苦境に追い打ちをかける自動増税の仕組み

稲生葵

令和の米騒動から見えてくる消費税の欠陥 苦境に追い打ちをかける自動増税の仕組み

 導入以来「なんでアイツをクビにしないんだ」と「どうしても彼が必要なんだ」の狭間で揺れ動いている消費税だが、アレには1つの根本的な問題がある。

 何が問題かというと〝税負担額が物価に連動すること〟が問題なのだ。

 この問題点は2024年以来の米高騰、令和の米騒動によって、顕在化することになった。

 米食というのは、日本国においてはただのカロリー源ではなく、民族的アイデンティティ、言うなれば日々の礼拝、宗教的儀式のようなものである。

 よって、米が高騰している間はうどんを食べるとか、デンプンで団子を作ってしのげば良い、と政府筋が言ってしまって良いものではないのである。

 ここで物価と連動する消費税が悪さをする。米の価格が2倍になったということは、消費税の負担額も2倍になる。

 消費税の税率は変動していないが、計算の元になる数値、商品価格が上がったことによって、税額が変動し、事実上の増税となってしまったのである。

 この物価高と自動的に発生した消費増税は、日本経済を前と後ろから深々と刺し、一般会計税収の推移によると、消費税収の伸びが所得税収の伸びを上回ってしまっている。

 つまり、所得の伸びを物価高と消費税が同時に蝕んでいるわけである。


 実のところ、この問題は古くから言われている。

 燃料費高騰とか、最短ルートが紛争や災害で使えなくなるとかいったことでコストが上乗せされて物価が上がる、賃金上昇に繋がらない悪いインフレというものがある。

 これをスタグフレーションというのだが、消費税は、この悪いインフレに相乗りして増税となるので、ただでさえインフレで消費活動が苦しいところに追い打ちをかけ、事態がさらに悪化するのである。

 政権与党は給付でこれを解決しようとしたようだが、悪いインフレが発生するたびに問題を起こすことが明らかな制度を放置し、そのたびに給付でその場しのぎというのは、お世辞にも褒められた対応ではない。

 さらに言えば、賃金上昇に繋がる良いインフレに対しても相乗りするため、せっかく良いインフレが発生しても、消費税が賃金上昇に繋がらない悪いインフレを同時出現させて足を引っ張ってしまうという悪性も存在する。


 また〝公平な税目である〟と繰り返し言われてきた消費税だが、果たして本当にそうなのだろうか。

 確かに税率自体は誰でも一律10%だが、米は高騰して5キロ4000円の領域にあり、デンプンは5キロ2500円程度である。

 米食を貫く日本人が400円の税負担をする一方、米食を諦められる人間にとっては、同重量のデンプン質を250円の税負担で購入可能である。

 じゃあそうしろと言うならそれでも良いが、仮にも和食文化を国家のアイデンティティとして、ユネスコ無形文化遺産に登録までした日本国政府が、これを言い出すのはいかがなものか。

 さらに言えば〝貨幣の消費活動〟にしか課税されないので、物々交換が行われると出番が無い。

「富裕層ほど高い買い物、たくさんの買い物をするから、たくさんの消費税を支払う」

 というお題目もあるが、富裕層は物々交換で入手する物資も多いのだ。付き合いのあるところから米や野菜を送ってもらえるのである。

 実際、農林水産大臣が、

「私は米は買ったことはありません、正直。支援者の方々がたくさん米をくださる」

 というような発言をして問題になり、最終的に辞表を出すという事件があっただろう。発言自体は、つい話を盛ってしまったということらしいが、まるっきり全部デタラメでもないだろう。

「日頃より大変お世話になっておりますので、お立ち寄りいただいた際には、お礼として、お食事をご用意させていただいております」

 というのも消費税は捕捉できない。

 何より、富裕層とて人間である。100倍の所得があるからといって、100倍量の食事をするわけではないし、100倍高いものが美味いわけでもない。

 というか、100倍高い食材、100倍高い料理自体、ほぼ存在しない。この域に届くのは、極めて希少なビンテージワインぐらいだろう。

 例えば、アメリカのトランプ大統領は大富豪だが、その食事風景を見たことがあるだろうか? 写真に映っていたのはマクドナルドのハンバーガーだった。

 マクドナルドは高級ブランドだろうか? ――まぁ、期間限定のコラボ商品は結構良い値段だが、それでも庶民の食費の100倍なんてことはありえない。

 消費税が想定する富裕層の姿は、バブル期の成金時代から進歩がないのである。

 そのバブル期ですら、高収入にも関わらずボロアパートに住んで、ひたすらタンス預金をしているというような人物は存在したはずである。

 実は消費税がうたう公平の裏には〝物価が全て同じ割合で変動し、消費者全員が所得に応じて全く同じ品目を、貨幣経済の中で消費する〟という非現実的な要件が隠れているのである。


 また、カーシェアリングのようなサービスによって、単独で所有するということをしない動きも広がっている。昨今の富裕層は、最高級の外車を手当たり次第に買い漁って並べたりしないのである。

 5人で5台買って共有すれば、実質1人で5台持っているのと同じこと、25台の高級車は必要ない――彼らはこういった効率的な仕組みを作るのが実に上手い(だから裕福になれるのだろう)。

 1人で大量に買うのは趣味人ぐらいのものだ。

 富裕層の支出圧縮術は日進月歩どころか、秒進秒歩で進歩し続けているのだ。


 さて、では消費税を悪いインフレに連動せず、消費物資によって差が出ず、事務手続き爆発も発生しないような仕組みに再設計しよう――となると、どうするか。

 まぁ、収入全体から見て、可処分所得の中から、消費に回るであろう金額を推定し、それで税額を計算する仕組みになるだろう。

 何か、見覚えのある仕組みではないだろうか?

 そう、これは所得税である。

 消費税は所得に対して、言葉遊びで二重課税をしていると批判することもできるだろう。


 ここまでで消費税の欠陥についてはご理解いただけたものと思うが、それでは何故、この欠陥制度が未だに温存されているのかというと、1つは財源として見かけ上は優秀であることだろう。

 悪いインフレによる経済悪化局面でも高い税収を実現できる。

 しかし、これが経済基盤を犠牲にして得られたものであることは、悪いインフレを後押しする機能と、所得税収との相関を見れば、先にも述べたとおり明らかである。

 そもそも「経済悪化時にも安定的な財源になる」は魅力ではなく、欠陥を示すものだ。減税や給付といった刺激策を必要とする局面で、財政施策の方向性を無視して勝手に税負担額をいじくり回す問題児であるということに他ならない。

 もう1つは消費減税を1度も行わず、消費減税時の挙動を妄想の中に置き去りにしながら「消費税が無ければ日本財政は破綻する」と言い続けてきてしまったことにあると言えるだろう。

 リーマンショック時などは、この消費減税実験に最適のタイミングだったのだが、実際には6年後に消費増税が行われる事態になってしまった。

 これでもし、廃止して日本経済が上向き、それによって財政基盤まで立ち直ってしまったら?

 消費税の存在を正当化してきた者は、厳しい批判を受けることを免れまい。

 バブル崩壊も、リーマンショックの影響も、コロナウイルスの惨禍も、お前が深刻化させたのだと言われることになる。政権与党などは空中分解するかもしれない。


 結論としては、根本的欠陥があり、インボイス制度の事務負担は中小事業者に重くのしかかっているわけで、緩衝措置として所得税を微増税しつつ、まずはインボイス制度が不要になるように一律5%程度に減税し、最終的に廃止するというのが、もっとも軟着陸できる形になると思う。

 何故、段階的に進めるかというと、一気に消すと国家予算の崖が出現する恐れがあり、やりかけの仕事が宙に浮いて過去投資分が全部無駄遣いになるなど、新たな問題を引き起こしかねないからだ。

 かといって、完全に穴埋めできるほど増税すると、既に消費税が悪いインフレを悪化させて経済にダメージを与えているので、その回復ができなくなる。

 合わせて歳出の見直しも必要になるだろう。経済にダメージを与えてまで徴税して足りないということは、支払い能力を超過しているのだ。

 重石の存在が明らかなのだから、当面は国債で穴埋めしても、最終的には回復した経済が返済してくれるだろう――というのも、そこまで夢物語ではない。この場合でも歳出の見直しは必須だと思うが。


 何を見直せば良いのか?

 それを外野の私に尋ねてしまうか。良いだろう、ではあくまで、私見としてお答えしよう。

 これは実に難しい問題だ。

 パッと見、厚生労働省予算の34兆円は魅力的な削り代に見える。しかし、年金と医療費を削ることは、所得の押し下げや生活困窮世帯の増加によって、税収まで押し下げてしまい、思ったほど改善しない可能性が高い。

 総務省の18兆円も大きいが、これを安易に大きく削れば地方行政の麻痺を引き起こし、その結果として、非効率と出費の増大が出現することは避けられないだろう。

 その他の歳出も重要な上、そこまで金額が大きくないので、大幅には削れないし、削っても焼け石に水だ。特にアジア情勢がきな臭い昨今、防衛予算は増額したいくらいであろう。

 と、すれば〝全体的に薄く広く1%ぐらい削って、その1%分の減税をする〟という方策が考えられる。一見プラスマイナスゼロで何の意味も無いように見えるかもしれない。

 しかし、減税によって経済を活性化することで、経済基盤が強靭になる。そうして、削って、減税してと繰り返していくと、差し引きはゼロのままだが、予算をバックアップする基盤がさらに強くなる。

 基盤が強靭になってきたら、1%削って0.5%減税という具合に、割合を変えていく。十分に強くなれば、削らずとも債務返済まで手が回るかもしれない。

 名付けて、経済賦活による歳出削減の漸進的計画である。

 これは牛歩のごとき、30年計画とかでの財政健全化に向けた取り組みになると思うが、初動でとにかくなんらかの成果――例えばGDPの伸び率向上、景況感改善、中間層の再生による二極経済の改善などを示し〝期待感〟を作ることができれば、

「この取り組みは今のところ差し引きゼロではあるが、日本経済の強靭化は、いずれ健全化を達成するだろう」

 という見通しから、国債格付けや円貨の評価に好影響を与えると考えられる。

 すると、国債利回りが低下して支払いが容易になり、円の強化によって有利な取引も可能になって、期待が目標達成を後押しするという、自己成就的予言効果が発生するのである。

 まぁ、今のところは、私が無責任に描いた餅でしかないが、なかなか美味そうな餅ではないだろうか?

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令和の米騒動から見えてくる消費税の欠陥 苦境に追い打ちをかける自動増税の仕組み 稲生葵 @Inou-Aoi

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