第2章 悔やんだ過去を書き変える 1話➅ 自分の本心で選択するということ

優実子は待っている、いつもの屋上で、星座の本を抱きしめ、フェンスの向こうに見える夜空を見上げながら。

宿命が運命に変わる瞬間が、この屋上の重い鉄の扉を開いてやってくるのを。


でも、本当は優実子は知っている。

その瞬間が必ずやってくるのを。


なぜなら宿命を運命に変えたのは紛れもなく優実子自身だからだ。


思い鉄の扉がゆっくりと開く気配を感じる。

運命のパーティータイムだ。


優実子はゆっくりとゆっくりと振り向いた。


「待っていたわ、衛藤潤一郎さん」


彼が立っていた。


「僕がこちらを選ぶとわかっていた?」


優実子は微笑み、

「ええ、もちろん」

と答えた。


「だってコーヒーショップオリビアと、病院の屋上その二分の一の確率は、小さなメモで私の宿命を運命に変えたあなたにとってはとてもわかりやすかったはず」


優実子はそういい、


「私も選択したから、あなたにも選択を。これでフェアだわ」

肩を上げおどけた顔で微笑んだ。


彼もつられて苦笑いをした。


「想い出したの、あなたのこと、確か1日だけ、私の病棟に検査入院してた、本来なら呼吸器の病棟だけど、部屋が空いてなくて、イレギュラーで1日間だけ循環器の私の病棟にいたこと」


「記憶力はいいの、苗字だけ想い出した、それで探したら、ラッキーなことに今現在、この病院にいる衛藤姓はあなたともう一人80代のおばあちゃんだけだった、そして、これは憶測だけど・・」

優実子は軽く微笑み、


「多分、その時に私と祥子のあの日のやり取りを聞いていた、そして、喫茶カトレアのメモを外来ですれ違いざまに私に渡した、どう間違ってない?」


「廊下であんな風に話してたら、聞きたくなくても、聞こえちゃいますよ」

そういい、彼は屋上のフェンスにもたれる優実子の横に並んだ。


「あなたの選択に委ねた。あなたが喫茶カトレアを選ぶ二分の一の確率に」


潤一郎はフェンスに手をかけ、夜空を見上げながら、

「自分の病名を知って、入院が決まって外来にいた絶望の中の僕の前を、あなたが患者さんを連れて通り過ぎた、僕は動かずにいれなかった、手帳を取り出し、急いで書いてあなたに渡した」


「なぜ?」

という優実子の言葉に重なるように潤一郎は


「あなたに惹かれていたから」


「初めてあなたを見た瞬間に恋におちたから」

真面目な声でそう答えた。


黙る優実子の傍らで潤一郎は言葉を繋いだ。

「今朝起きて検温の時、病棟のナースに、落ちてましたよ、って、きっとあなたが書いてそのナースに頼んだであろう二つのメモを渡された」


「僕もあなたがいうように、宿命を運命に変えてここにいる、本当はあれ以上あなたに関わることはないと思っていた、もっといえば、本当は喫茶カトレアに行くつもりもなかった、でも」


行かずにいられなかった、といい、潤一郎は少し悲しげな声で

「もう知ってるんでしょう?」

そういった。


「病院のデータ的には」

優実子はその質問に真面目に答えた。


「肺がんステージⅣ、僕はあとどのくらい生きていられるだろう」

彼は苦く笑いながらそう呟いた。


優実子は潤一郎のその言葉に動じずに、

「そうよ、あなたも選択してここにいる、だから宿命を運命に変えられるのよ。衛藤潤一郎さん、ちゃんとみつけたの、魂の名前」


優実子は藍色の夜空を指さし、

「あの星、見える?オリオン座」

話し出した。


「オリオン座の神話では、アルテミスは誤って自分の愛するオリオンをその手で殺してしまう。その同じエネルギーを使って、あなたの宿命を本当に運命に変えるの」


「意味がわからない」

潤一郎は戸惑った口調でそう呟く。


「遠い昔の友人が教えてくれたの、エネルギーは使い方次第だって」


「アルテミスとオリオンの過去は変えられない、でも私たちが活かすことは出来る、

私の手の中にエネルギーは使い方次第という情報と、その神話がある。

だから私は今、あなたの宿命を運命に変えることが出来るの」


「どうやって?」


潤一郎の戸惑いが混じるその質問に、優実子は迷いなく答える。

「信じるのよ、英語でいうところのTRUSTよ、そのエネルギーを使うわ」

優実子は続けた。


「誤情報にのってしまいアルテミスは愛するオリオンに向け弓を射ってしまう、

だから私はあなたの肺がんステージⅣを誤情報に変えることを思いついた。

それは信じず、もう一つの情報の方を信じることにしたの、表面的なことでなく、心から全意識で信じることはちゃんとそのとおりになるわ」


「信じる?何を?どうやって誤情報に変えるの?だってステージⅣがどういうことだか、看護師であるあなたが一番わかっているはずだ」

潤一郎は首を振り苦笑いをした。


優実子はしっかりと潤一郎をみつめ、


「見たのよ、自分の未来を」


「あなたと一緒に生きている、歳をとっても二人で一緒にいる未来が見えたの。はっきりと、だから私は信じるのではなく、それを信じずにいられないの」


冷たい冬の風が優実子と潤一郎の間を揺らす。


「だから、生きて、私と一緒に」

優実子は潤一郎の冷たい手を取った。


優実子があの日からずっと大切に持っていた星座の本がばさりと二人の間に落ちた。


あの日プラネタリウムで、彼が自分の内側へと優実子を誘導したと感じていた。

でも本当は優実子自身が優実子にいいたかったのかもしれないと思う。


いつだって自分の内側に答えがあると。


「気がついたの、最初、魂の名前は探さなきゃいけないものだと思った。でも探すのではなく、それは在るものだった。あなたという存在そのものだった」


「私ちゃんとみつけたわ、あなたを」


しっかりと自分の手を取ったまま泣きながら微笑む優実子を、潤一郎はゆっくりともう片方の手で抱き寄せた。

そしてこういった。


「こんな話を聞いたことがある、本当は未来の方が先にあって、人はそこから過去を創造していくってね」


「わかった、僕も信じてみよう、あなたと一緒に生きている未来を」

潤一郎は優実子をさらにしっかりと抱きしめた。


「こうやってあなたが僕を生かしてくれることを、自分もあなたを抱きしめることが出来ることを・・信じてみよう」




















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蓮の庭 ~あなたの過去を書き換えます~ 蓮宮 綾乃 @ayano-hasumiya

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