終章:たまには、だまされるのも悪くない
夏の終わり。
風が少しだけ冷たくなって、蝉の鳴き声が
聞こえなくなっていく季節。
夏芽と蒼真は、並んで歩いていた。
今日は二人で映画を観た帰り道。
どこか気だるい夕焼けが、歩道をオレンジに染めていた。
「なぁ、夏芽」
「ん?」
「オレ、もしかしたら……ずっと、夏芽にダマされてたのかもしれないなって思って」
「はぁ?」
夏芽は振り返って、眉をひそめた。
「何それ。いきなり失礼じゃない?」
「いや、違うんだよ。……“優しさ”ってさ、たまにウソみたいに見える時あるじゃん。都合よすぎるっていうか、“ほんとにこの人、そんなことしてくれる?”って。でも……夏芽の優しさって、たぶんオレが信じられなかっただけなんだなって。だから“ダマされた”ような気分だったって話」
「……なんか、わかったようなわからんような」
蒼真は笑った。
「でもさ、もう“疑ってるフリして逃げる”の、やめようと思って。夏芽がくれるものを、ちゃんと受け取って、ちゃんと返していきたい。……ずっとそばにいて欲しいって、
今はちゃんとそう思えるから」
夕日が、夏芽の横顔を照らした。
彼女は一度だけ立ち止まり、空を見上げてから
少し照れたように、でも確かに笑った。
「……じゃあ、こっちもウソのないやつ、ひとつあげる」
「ん?」
「私も、あんたのこと、ずっと好きだったよ」
風が吹いた。
少し強めの、秋の始まりの風。
それでも二人は、前を向いたまま歩き出す。
手と手が、自然に触れ合い、ゆっくりとつながった。
たまには、だまされるのも悪くない KAORUwithAI @kaoruAI
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