Out of Space/EP Final『幸せのカタチ』

宮本 賢治

EP Final『幸せのカタチ』

ソファに深く腰掛け、タカシとユイは食後のコーヒーを楽しんでいた。

ベランダに出たミルクがジッと夜空を見上げている。

「ねぇ、最近、ミルクのヤツ、ど〜したの?」

そういって、タカシがカップを一口。

「うん。

あ〜やって、夜空見上げてるんだよね。

何か、おセンチなネコさんだよね」

そういって、ユイもカップを一口。

「ミルク〜!

一緒にお風呂入ろ♪」

ユイがおセンチな背中に話しかけると、しばらく間があってから、振り返ったのはいつものミルクだった。

あっわあわ。

泡の固まりに目があるくらいに、フッワフワに泡立てて、ユイはミルクを洗う。指で優しく洗われて、ミルクはご満悦。

イカ臭い。

その評判が立ってから、ミルクは、ユイとタカシが交代で毎日お風呂に入れている。それ以来、ミルクはいつも石鹸のいい匂いのする粋なネコさんになった。

ふ〜っ♪

チャポンと湯船につかる。

ユイに後ろから抱かれるようにして、ミルクは体をあずける。

「ミルク、お風呂、気持ちいいね」

ユイの問いかけにご満悦のミルク。

「ボク、ユイとお風呂入るほうが好きだよ」

「どうして?」

「タカシも優しく洗ってくれるし、お話も楽しいけど、体がゴツゴツしてるんだよね。

ユイのほうがやわらかくて、フニャ〜ってなるよ」

「ん? それはユイちゃんのフワフワオッパイが好きってこと?」

「うん。

やわらかくて、あったかい、ユイのオッパイ大好き♪」

ユイはミルクの頭を優しくなでなでする。

「へっへ〜♪

うれしいな。

でも、男の子はオッパイが好きって、素直にいえる子のほ〜が、お姉さんは好きだな」

ミルクはユイのオッパイに後頭部をあずける。そこにいやらしさは感じられない。母性を求める男の子そのもの。

「ねぇ、ミルク。

花火って見たことある?」

ミルクは初めて聞く言葉に思わず振り返る。

「え? 知らないよ!

花火って何?」

「知らないんだ。

だったら、3日後楽しみにしてて!

花火大会があるんだよ。

花火って···

夜空にパッと開いて消える、スッゴくキレイな、光る炎のお花だよ。

大っきくて、キレイなんだ。

ミルクとタカシとわたし。

3人仲良く、花火見ようね。

大っきなスイカ切って、それ食べながら花火見物。

わ〜、スッゴい楽しみになってきた!」

楽しい情報盛り沢山に、ミルクの頭はパンク寸前。

「花火、スイカ、3人で仲良く···

スゴい!!

幸せ過ぎる!」

「ホント、楽しみだね♪」

ユイが笑っていうと、ミルクはちょっとションボリして見える。

「ね、ミルク、何か悩み事あるの?」

「う〜ん。

悩み事っていうか、ボクだけこんなに幸せでいいのかな?」

ミルクが純粋に悩んでるのを感じて、ユイはミルクの頭を優しくなでながら、いった。

「幸せでいいんだよ。

みんな、それぞれ自分の幸せだけを考えて生きればいいんだよ」

「でも、自分が幸せだったとしても、他に困ってる人がいるよ」

「そのときは、自分のできる範囲で困ってる人を助けてあげればいい。

困ってる人を助けて、その人が喜んでくれることを幸せと、ミルクが感じるんだったら、わたしはミルクを誇りに思うよ」

ユイはそういって、ミルクをギュッと抱きしめた。

「けど、ミルクはちっちゃなネコさんなんだから、そんなこと考えなくていいよ。

わたしとタカシともっと仲良くなってよ!

そうしたら、わたしたち、スッゴく幸せだよ」

ミルクは振り返って、うなづいた。

「うん。

ボクもユイとタカシともっともっと仲良くなりたい」

脱衣場でバスタオルで拭き拭き、ドライヤーでブロー。

ユイにされるがままで、ミルクはファサとキレイな毛並みのさわやかネコさんになった。

二足歩行でベランダまで行き、ガラス戸を自ら開ける。外に出ると、キチンと戸を閉める。

ミルクは尻拭きネコさん。

また、夜空を見上げている。

星空、その奥、銀河の向こう。

宇宙の果てを見透かすように遠くを見ている。

ミルクはポツリといった。

「うん。

戻るよ」

ベランダの戸を開き、ユイがいった。

「ミルク〜、お風呂上がりに冷たいもの飲む?

···あれ? ミルク、どこ???」

ベランダにミルクの姿はなかった。


タカシはユイをソファの上で抱きしめた。優しく、優しく頭をなでて、ユイを慰める。

その日の晩。そして、夜が明けて朝日とともに2人はミルクティーの姿を探した。

でも、ミルクはどこにもいなかった。

ユイは泣いた。

もう、ユイが消えてしまうんじゃないかというくらい、ユイは泣き続けた。

「わたし、ミルクと約束したんだよ。

タカシとミルク、わたしの3人で花火見ようって」

「だったら、戻ってくるよ。

花火大会に間に合うように。

あんな不思議な生き物。

急に現れたと思ったら、消えちゃうんだ。

また、ポンッと急に現れるよ」

「そうかな?」

「うん。

きっと、そうだよ」

タカシの発言は不思議に的を得ているような気がした。

「ね、ミルクと出会ったときの話聞かせてよ」

タカシにうながされ、涙を拭いたユイはうなづいた。

「あの子、すぐそこの公園にいたの。

公園って、ジョギングや散歩の人も多いし、わたしみたいに通勤、帰宅の通り道にしてる人もいるじゃん。

外灯の灯りの下のベンチで、さみしそうにチョコンと座ってたの」

タカシは状況を思い浮かべた。

「周りの人の様子は?」

「ん〜。

何かみんな引いてた。

何か不思議な生き物がいるって」

普通の対応だな。タカシは思った。

「ユイはどうしたの?」

「ただでさえ、丸いのに、肩を落としてまん丸になってるのがかわいくて、声掛けた」

恐るべし、ユイのコミュ能力。

UMA (ユーマ)を平然とナンパする。

「自分が誰なのかもわからない。

どうしてここにいるのかもわからない。

っていうからさ。

だったら、うちおいでよっていって、連れてきたの。

その日、タカシ残業だったしね。

キャットフード買ってきて、あげたら、お腹空いてたみたいで喜んで食べてたよ」

「でも、もうキャットフードは味がしないから、食べたくないっていってたじゃん、ミルク」

「ま、そりゃタカシのゴハンのほうがおいしいよね。

それにあの子、何でも食べるし」

確かに何でも食べる。

「キャットフード食べてる姿を見て、名前呼ぼうと思ったら、この子名前ないんだと思って、名前をつけてあげたの。

キレイなクリーム色だったから、

ミルク。

ミルクティーって。

そしたら、ミルク、スッゴい喜んでくれたな」

ミルクを思い出したからか、またユイの目から涙がこぼれた。

タカシはユイの涙を拭っていった。

「大丈夫。

ミルクは帰ってくるよ、絶対」

「うん。

そうだね。」


花火大会当日は朝から快晴だった。

このマンションはベランダから、近くで行われる花火大会を見物できると人気の物件だった。

大抽選会の末、タカシが引き当てた。

休日の朝の朝食。

タカシは思わず、ミルクの分までベーコンエッグを作ってしまった。

「また、やっちゃったな」

フライパンを見つめるタカシ。

ユイもついつい、ミルクの皿を用意していた。

そのとき、急にベランダの戸が開いた。

そこにいたのは紛れもなく···

「ミルク!

ミルクティー!!」

ユイはミルクに駆け寄り、抱き上げた。ギュッと抱きしめて、顔中にイッパイ、キスをした。

タカシがミルクの異変に気づいた。ミルクの左目が潰れていた。

「ミルク、その目は?」

ユイのキスの嵐をくすぐったがってるミルク。

「うん。

見えなくなっちゃった」

ユイは、ミルクの左目にもキスをして、ミルクをギュッとギュッと抱きしめた。


ポールは戦場に戻った。

皇帝に洗脳されていたヘレンの姉の魔女。

ヘレンが遠隔でその洗脳を解き、帝国側に潜入していた同志たちが内乱を起こした。

それに便乗してポールたちも敵陣に攻め込んだ。

そのとき、ポールは左目を失った。

皇帝を倒し、ポールは代わりに帝国も率いることになった。

この銀河を統べる者は、魔女の血を引いていなければならない。

ポールの実の母は、教母であったヘレンだった。

ポールは実の父親と兄を皇帝に殺され、王位継承第一位の王子として、銀河を統べる王となった。

平和を掴んだ若き王は、ヘレンにお願いをした。

1日だけでいいから、タカシとユイの元に戻りたいと。

ヘレンは、ポールに1年の猶予を与えた。

そう、ポール···いや、ミルクティーは1年の猶予つきで帰ってきた。

ミルクとなっても、潰れた左目は戒めとして、そのままにしてもらった。

ポールは感謝した。

実の母である銀河系最強の魔女ヘレンと、再度身代わりとなってくれた愛猫ミルキーに。


ベランダの長椅子に座る。

タカシとユイ。

その真ん中には不思議生き物、

ミルクティー。

3人は大きくカットした真っ赤に熟れたスイカを食べた。

ヒュ〜。

地上から、花火が打ち上がる。

パッと光って咲いた大輪の花。

ミルクは、ユイが作ってくれたデフォルメガイコツがかわいい眼帯をしている。

花火。

一瞬の煌めき。

3人はこの日見た花火を一生忘れない。


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