第30話 《原初のスライム》

 ハジメから放たれた光が世界を巡り、地上に降り注ぐ。

 空から降り注ぐ淡い雪のような光に触れる——その瞬間、世界中の“知性ある存在”が、同じ夢を見た。



***



  神ノムスの手によって、《原初のスライム》として、この世界初の生物として生み落とされた。

 ——その名は、ハジメ。


 彼が神に託されたのは、「この世界に命を根付かせること」。


 そこには動物も人もおらず、ただ魔力の漂う空気と植物、海藻が生えるだけの海が存在していた。

 作られたばかりの世界で、ハジメは生物の創造者となる。


 ハジメはこのスライムという形で、自ら分裂し、魔力を使って植物を改良し、自ら生み出したスライムと融合する事で、クラゲのような動物を創造し、徐々に生命の循環を生み出していった。


 山も川もない世界に、ハジメの相談を受けたノムスの手で自然が生まれた。

 太陽が見えない均一な光の世界に、季節が生まれた。春、夏、秋、冬——。


 しかし、気候の変化は同時に“死”をもたらした。

 スライムは干からび、クラゲは茹で上がり、生物たちは生存のために進化を迫られていく。

 やがて、クラゲは仲間を捕食し始め、防御や毒を身につけ、捕食と防御の連鎖が“進化”の名のもとに加速していった。



 ハジメは思う。

 果たして俺がしている事は正しいのか?

 理想の世界を作りたかった。争いのない、平和な世界を。

 それがとても難しいものである事を、生きていく中で知ってしまったけれど。



 季節は巡り、冬が訪れ、スライムたちは命をかけて寒さに耐えた。

 その中の一部のスライムたちは、生き残るために群体を成す事で、【知性が芽生え始めていた】。


 ハジメは知性の芽生えたスライムたちと共に、社会を形成する。



 そして生き物の居ない川に“魚”を作り、最も多様な進化をするだろう彼らに、スライムの“核”を元に魔力で作り上げた“知性のタネ”を植え付けた。

 いつか必要となった時に、自らの手で知性を芽吹かせて欲しい、と——。


 不完全に作られた“魚”の一部は、陸に上がり、それぞれ独自の道を開いていった。

 空を飛びたい者は羽を持ち、地を駆ける者は足を伸ばした。

 そしてそのどれもが、彼のまいた“知性のタネ”を宿していた。

 全てハジメが作った、魚からの出発だった。



 ある日、平和だった日々に転機が訪れる。

 巨大な生物たちの戦いが起こり、それの余波で海底火山が噴火したのだ。

 巻き上がる噴煙で、世界は闇に覆われる。

 陽の光が地上に届かなくなり、世界は生命が生きられない、極寒の地へと変貌する。


 そしてハジメは願うのだ。

 ——自らが眠りについても、みんなを死なせないで欲しい、と。




***




「——皮肉だな……」


 ある男は言う。


「俺たちは全く正解にかすりもしてない“真実”を掲げて、争いを生まないための知性ものを理由に争ってた訳か……」


 武器を置いた男は、目の前で同じく武器を持つ手を下げた男と向き合う。


「俺たちの祖先はみんな同じで。最初に知性が宿ったのは、俺たちなんかじゃなかった」


「——なんのために、戦ってたんだろうな……」


 ぽつり。落とされた疑問に、応えは無い。




 その後も小さな小競り合いはあったが、大きな戦争は大義名分を失って沈静化した。


 そしてスライムたちも、ヒトと同じ知性ある生き物だと認められ、社会に受け入れられるようになっていく。



***



「——それは無理だな」


(手間が掛かるから、難しいんだって)


「そうか。それならこれと交換ならどうだ?」


(それなら、こっちの価値が高い品物と交換するのはどうか、って)


「ああ、それなら良いだろう」


 種族間の交流は、以前より格段に増えた。

 そして最初の知性ある生き物だったスライムたちは、それをおごることなく社会に溶け込んで、その意思を読み取り伝える能力と、争いを好まない性格を遺憾無く発揮した。


 スライムたちは種族間の橋渡し役として、“通訳種族”として世間に受け入れられていったのだった——。




***




『——ありがとう、ハジメくん』


 ノムスの感謝の声が響く。


『きみが居たから、世界はここまで発展できた』


「……どういたしまして。これで良かったんだよな?」


『ああ。君が居たから様々な生物がこの世界に生まれた。——そして、君の祈りと言葉で、彼らは託された願いを知った』


 ハジメの脳裏に、徐々に平和になりつつある世界が映る。


「——そうだな。それが一番だ」




 これは、『原初のスライム』が、“進化”を繋いでいった物語。


 争いを生まないための知性であって欲しいと願った“創造主”——《原初のスライム》が、命を生んだ物語だ。




   第××世代スライム・セカンド×世 記

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

原初のスライム〜初めての生命体になって世界を創造しよう〜 雲霓藍梨 @ungei

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ