第29話 目覚め
ハジメの眠る地へたどり着いたスライムたちは、一縷の希望を賭けて、ハジメ覚醒の儀式を始める事にした。
(たすけて、たすけてハジメ…!)
(ヒトが……ヒトが襲ってくる!)
(僕たち何も、悪いことしてないのに…!!)
思念が空気を震わせる。悲鳴のような声が、夜の森を駆け抜けていく。
山頂には、かつて火山噴火で氷河期になりかけた時にスライムたちが身を寄せ合った、深い窪みができていた。
——そこは、今なおハジメが眠る場所。
一体、どれだけの時が過ぎたのか。スライムたちの誰も、彼の姿を知らない。けれど、語り継がれてきた「希望」が、ここにあると信じていた。
代わる代わる、掘り起こされた跡の残る窪みへ、スライムたちが入っていく。
みんな自分の魔力をハジメの身体を包むように分け与えながら、彼の眠りからの目覚めを待った。
(ハジメ、起きて……)
(目覚めて!ハジメ……!!)
自分たちの魔力を、“始まり”に戻すように。
スライムたちの切実な願いが魔力となって、その場を満たす。
段々と、明るく輝いていくハジメ。
——その時。
窪みの中心、長い間眠りについていた“魂”が、微かに、しかし確かに震えた。
***
「——おいおい。なんだ? あの光……」
森ごと動いたスライムたちを追ってきた狼人たちは、その先で異様な光景を目撃した。
そこにあった核の存在しないスライム体に、全てのスライムたちが魔力を注ぎ込んでいく。
「っ魔力があの核のないスライムに集められています…!」
「そんなこと分かってんだよ。核のないスライムなんて、見た事ねぇもんは何だって話だ」
スライムは死体から核を取り出すと、身体が溶けて消えてしまう。
それなのに、あそこにあるのは核の存在しない、消滅していてもおかしくないスライムの身体なのだ。
「しかもあれに魔力を集めて、一体何ができるんだ——?」
その時。
一際強く透明なスライムの身体が輝いて、ドクンッと僅かに脈打つ。
ドクン、ドクンッ
徐々に大きくなっていく脈。
“核”が無いそれは、それでも生きていて。
何かが目覚めようとしているのだと、その場にいた者たちは本能的に理解した。
「っ何が起こっても良いように構えろっ! 全員、魔法準備!」
未知への恐怖から、そんな指示を出した。
——しかし、それは少し遅かった。
……否、遅くて正解だったのかも知れない。
透明なスライムの身体が、眩い光を放つ。
森の中の音が全て止んで、静寂が辺りを支配する。
そしてその中心から、世界を揺るがす力強い“声”が響き渡った。
「や め ろ ————!!!」
全ての者の脳内に、声が響く。
スライムにも、狼人にも。
別の場所にいる、全ての生き物たちにも。
「——お願いだ! もう、争うのはやめてくれ…!」
悲痛な響きと共に、全ての生き物の脳内に流れ込んできたのは、自分たちの起源——“本当の始まり”の記憶だった。
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