第28話 資源

 ——戦争は激化し、もう止まる術を持たなかった。


 主義主張の違いによる争いは、傷つけ合った者たちによる報復の場となり。

 争いが争いを生む、悪循環へと陥っていく。


 自分たちの勢力を拡大しようとする“ヒト”は、自然そのものにも侵略の手を伸ばし、ついにはスライムたちの守る森にも戦火が迫っていた。



***



 ——狼の“ヒト”族が、森の周辺に野営地を構える。

 彼らが狙うのは、森にある魔力資源だった。


「この森は、魔力反応が高い。その分、魔物も強いかも知れないが、充分な資源を得られるだろう」


 リーダーの男は台の上に立ち、演説する。

 資源を得られれば、周辺国から一歩飛び抜けて、戦争技術の発展に貢献できるだろう、と。


「クンッ……獣人共のにおいもしねぇな。まだ資源は奪われてない」


 周囲のにおいを嗅ぎ回っていたヒトが、リーダーに報告する。


「よし。俺たちが最初に見つけたんだ。中にある全ては俺たちのものだな!」


 リーダーは満足そうに頷いた。

 その耳と尾はパタパタと動き、彼の興奮を示している。


「では行くぞ! 我々狼人の繁栄のために!」

『狼人のために!』


 揃った号令を最後に、彼らは森の中心部へ向かって進んだ。



***



(敵襲!敵襲——!!)


 ツリースライムたちからの思念の声が、森の中を次々と伝播する。


(なんだなんだ?!)

(何があった!?)


(ヒトが攻めて来た! 狙いは魔力源——つまり、僕たちの“核”だ!)


 資源として狙われたスライムたちに、動揺が走る。

 今まで敵対する事なく生きてきたというのに、ヒトはどこまで強欲なのか、と。


(っ、ここにあるのは花畑だけだ。花畑ならどこでも作れる! みんな、逃げるぞ…!)


 多肉植物のスライムが下した命令で、一斉にスライムたちが森から逃げ出す。

 ツリースライムたちも当然動き出し、森ごとの一斉移動が始まった。



***



「っなんだ?!」


 動き始めた森の木々に、狼人たちが混乱する。

 ……動く木々など、聞いた事がない。


「リーダー! スライムです! 木の根元でスライムが動いています…!」

「なんだと? …もしかして、魔力源はスライムたちか…!」


 求める資源の内容が分かって、リーダーは納得する。

 ——スライムの核は、とても良いエネルギー源になる。これで狼人の国も、魔法技術が飛躍的に向上するだろう。


 スライムたちが移動していく先は、山にある森の方向だ。

 想像以上に速いスライムたちの動きに、狼人たちは必死に後を追った。


(——追いかけて来ないで!)

「? なんだ?」


 飛んできた思念に、首をひねる狼人たち。


(僕たちは何も、悪いことしてないじゃないか…!)


 脳内に響いた更なる声に、思わず走るスピードが下がる。


「……もしかして、スライムに“意思”があるのか?」

「いや、それだけじゃない。こちらに言葉を伝える術ももっているみたいだ…!」


 自分たちがしている事は、意思ある生き物を資源として扱おうとする事で。非人道的ではないのか、と狼人たちの中に戸惑いが生まれる。


「っええい! どうせ俺たちは獣人たちを殺すんだ! ここでスライムを殺したところで何も変わらん…!」


 ひとりの台詞に、皆の意識がひとつになる。


 前を移動していたスライムたちは交渉が拒否された事を知ると、そのまま目指す場所へと一直線に走った。



 山頂——ハジメが眠る、その場所へと——。

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