第27話 文明の違い

 ——ハジメが眠りについてから、どれほどの時間が経っただろうか。


 生き延びた生物たちは、それぞれの大陸で独自に進化して、異なる文明を築いていた。

 彼らの知能の源になったのは、遠い先祖の生みの親が植えた“核”という名のタネだった。だが、それを知る者たちは居らず、皆が「自分たちで知能を会得した」と信じていた。


 ある大陸では狼からヒトが生まれ、またある大陸では猫からヒトが生まれた。

 猿からヒトが生まれた所もあれば、トカゲからヒトが生まれた所もある。

 様々な種族が生まれ、それはノムスがハジメに求めた“種の多様化”の証でもあった。


 手の発達で道具を使い、二足歩行になり。

 調理、夜の防衛、暖房に火を利用して。

 道具の利用だけでなく、作る事を覚え。

 言語の発達や埋葬などの文化発達と。

 社会性の向上で、狩猟や育児の効率化と。

 住居の開発で、定住する事を覚え。

 文字など“記録”により、文化と技術の継承が始まり——。


 文明の発達と共に、“ヒト”の形が形成されていく。

 社会性を持ち、知能の発達した生き物。


 ——しかし、それが全て良い結果をもたらす訳ではない。


 文明は、“思想”を生んだ。

 主義主張が食い違えば、争いに発展した。

 信じるものが違う。それだけで。


 やがて、ヒトは海を渡る術を手に入れた。

 ——そして出会うのだ。

 自らと見た目の違う、社会を形成した“ヒト”に。


 “ヒト”は、違う生き物からの進化をたどった、その“ヒト”を、“獣人”と呼んだ。

 それぞれが、それぞれの言葉で、相手をそう——蔑称するさげすむ

 自分たちの祖先以外は“獣”だと認識しているからだ。


 そして、異種族間で異なる言語を理解し、交流を図ろうとする者も現れる。

 最初はそれで良かった。

 異なる文化で、異なる特産品。

 求める物が違うために、価値の差が生まれ、交易が成り立つ。


 しかし思想までもを伝える段階に入ると、異なる考えが火種を生んだ。

 どの種族もこう主張したのだ。


 ——自分たちの種族が、最も優れた最初に知恵を獲得した種族である。


 と。

 それは長い長い争いに発展する火種となった。



***



 戦争は、魔法技術の発達と、武器の開発を促進させた。

 狩猟のためだけではないその発展は、しかし一気に技術を躍進させた。


 小さな小競り合いが、段々と規模を大きくしていく。



 それは、かつて知能の芽を植えた“創造主”が避けたかった未来であり、しかも全くもってデタラメな主義主張である事を、争う当人たちが知らない。

 そしてそれを、本当の「最初に知恵を持った者」である自覚のあるスライムたちは、森の奥でひっそりと生きることで傍観するのであった。


(……ハジメ、あなたの求めた世界は、どんなでしたか?)


 世代を経て、それでも“創造主”の事を語り継いでいるスライムたち。

 その背には、冠のような多肉植物——かつて創造主と共にあった証が揺れている。


 文化が発展し、思考も複雑化したスライムだが、“最初のスライム”の言葉を大事にして、できるだけ争わない方向で発展してきた。

 ——思念での会話だったおかげで、言葉の意味するところの行き違いが少なく済んだのも要因である。


 戦いを求めるスライムは、この閉鎖された空間を出て行った。

 どこかで動物や、“ヒト”と戦っているかも知れない。


(戦いを恐れたという、あなた。わたしたちは花を育て、花の蜜で生活している。——できるだけ誰も、殺さないように)


 一陣の風が吹く。

 暖かなそれが、鮮やかな花びらを舞わせた。


(間違ってませんよね?——ハジメ)


 彼はまだ、目覚めない。

 争いの嫌いな彼が、外の世界を知ったらどうするのか。

 ハジメと会った事のないスライム達は、ただ彼の眠りを守り、その目覚めを待つだけだった。

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