第26話 共同魔法

 世界が闇に覆われ続け、急激にその温度を失っていった。

 変温動物はまず動けなくなり、植物は光合成ができずに弱っていく。

 エネルギーを大量に必要とする恒温動物は食糧が無くなった事で餓死し始め、食料を必要としないスライムたちは少しでも温かい地中深くへと潜り、身を寄せ集めていた。


(——このままじゃ、ジリ貧だ)


 地中に居ても、冷たさが段々と忍び寄ってくる。

 食糧を必要としなくても、凍り付いてしまえばスライムの命も一貫の終わりだ。

 恒温スライムも魔力消費が激し過ぎれば、温度が上がらない。


「……セカンド、大丈夫か?」

(う、ん……。すこし、ねむくなって、きた…)

「! っおいセカンド!セカンド……!」


 冬眠なら、まだ良い。

 けれど、そうじゃないならば——。


「ノムス! ノムス……! どうすれば良い……?! どうすればみんな助かるんだ……!?」


 悲鳴のような呼び掛けに、応えは——






『ハジメ、くん……』


 ——あった。



「ノムス…! やっと繋がった……!」

『ああ……。ようやく少し、交信できるようになったんだ』


 少し弱々しい声が、俺の頭に響く。

 実に、初めての冬の前に忠告を受けた以来だった。


「そうなのか……。それでノムス、今のこっちの状況、分かるか?」

『うん、なんとなくね……。それで、ハジメくんはどうしたいんだい?』


 どうしたい、と聞かれて、どうにかできるのか?と疑問が浮かぶ。


「……できれば、火山灰を晴らして、元に戻したいよ」

『……でもそれだと、またいつか同じように巨大生物たちが争い、同じ運命をたどるかも知れないよ?』


 問題の先送りをしているだけじゃないのか、と問われて、思わず唾を飲む。


「っじゃあ、どうしろって言うんだよ……!」


 眠りにつくスライムたちの真ん中で、俺は声を張り上げる。


『——魔力が世界から少なくなっても良いなら、方法はある』

「……それ、スライムたちは死なないか?」

『魔力だけで生きる事はできなくなるけど、死にはしないだろう。——ただ、きみは長い眠りに就くことになるかも知れない』

「そうか……」


 ——別れは、寂しい。

 神が言う“長い”とは、どれだけの期間の事を指すのか分からない。

 そして、セカンドたちにまた、生きて会えるのかも、分からなかった。


「——それでも」


 みんなが死んでしまうよりは、ずっと良いから。


「助けてくれ、ノムス。俺の力が必要なら、全て捧げるから」


 純粋な祈りを。


『——了解した。それなら、私の力と、きみの魔力を利用して、この世界に“晴れ”をもたらそう』


 魔力の根源である火山は、神力と相性が悪く、魔力と相性が良い。

 そう言って、ノムスは神力と俺の魔力を練り上げて、大規模な魔法を発動させた。


『さあ、準備は良いね? ハジメくん』

「……ああ。いつでも行けるぜ」


 二人の力が合わさって、上空と海中火山を繋ぐように、一本の光の柱が顕現する。


「『魔力、封印…!』」


 いまだ噴煙を上げ続けていた海中火山が、二人の魔法で活動を止める。

 そしてノムスが起こした風で火山灰は徐々に晴れ、地上に暖かさが少しずつ戻ってきた。


「……ノムス……」

『……なんだい?』


 朦朧とした意識の中で、最後に彼に声を掛ける。


「助けてくれて……ありがとう……」

『うん……、おやすみ。またね、ハジメくん』


 落ちていく意識の中で、周囲のスライムたちが目覚める気配を感じた。




 ——ありがとう、ノムス。

 仲間を助けてくれて。

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