第6話 秒速五億キロメートル

 ソニックブームも出なかった。

 周囲がドカンとはならなかった。


 結局のところ、荒れ狂ったのは花婿。殴られ額を五針縫ったのは俺で、足の骨を折ったのは字峰だった。字峰が一番の負傷を負い、それでも抵抗して。


 ――結婚の話は、ひとまず流れた。



「忍者が出た方が面白かったのに」


 隣町の病院で、字峰はそのように言った。


「忍者が出たらなんでも面白くなってしまうでしょう」

「だから、面白い方が良いんだよ」

「現実なんて面白くないものと相場が決まっています」


 字峰は入院着で、ぐぬぬと唸った。


「――まぁ」


 窓の外。

 海も見えない町の病院。三階の病室で、字峰は呟いた。



「一番来て欲しいやつは、来てくれたわけだが」



 俺と彼女は、そのような話をした。

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秒速五億キロメートル 村山朱一 @syusyu101

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