自分はラヴクラフト氏の原著邦訳にあたったこともない(田辺剛氏のコミックを読んだ程度)、平均的日本人男性程度の知識しかないクトゥルフ初心者ですが、本作はそのエッセンスがふんだんにつまった正統派のクトゥルフ小説だと感じました。
難解な文章で知られるラヴクラフト作品ですが、本作は彼の作品がもつ人知を超えた不条理さや陰湿な恐怖体験を踏襲しつつ、それを我々でも読み解き易い非常に平易な文章にかみ砕いて提供されているのです(しかも新たなオリジナルの創作物として!)。
こんな贅沢でありがたいことはない。
「舞台は日本の千葉か……」というタイトルで、自分は最初、色物なのかな?という少々うがった見方で読み始めましたが、読んでみてその予想が良い意味で裏切られました。
これは本格的なクトゥルフ小説です。
「クトゥルフって名前は知っているけど難しそう」と敬遠している諸氏にこそ、この小説を入門編として読んで欲しい。
そして、そのエッセンスを味わって欲しいと思います。
皆さん、コズミックホラーという言葉、知ってますか。
漢字で書くと、宇宙的恐怖、なんですって。
宇宙、恐怖。なにか宇宙的な、こわい、なにか恐怖。
今夜の主人公、天童信介さん。UMAを探しに行くんです。
UMA、ウマではありませんよ。ユーマ、未確認動物のこと。
どんな動物でしょうねえ。でてきますよ、こわいですよ。
さあどんなのでしょうか。それは、今夜これを読んで、お確かめください。
それとね、キャンプ飯。でてきます。おいしそうですよ、食べたいですねえ。
さあどんなのでしょうか。それも、皆さんと一緒に読んで、確かめてみましょう。
諭より証拠。たっぷり、ご覧になってください。それではまた。
誰もが知る日本の千葉県の低山で、人知れず繰り広げられる恐怖。
道なき道を行くこと、未踏の地に行くことに喜びと、達成感を感じる信介の元に訪れる、2人の男女の研究者と肉塊。
未踏、いわゆる秘境という、ちょっと日常から外れた世界。そこにあるのは未知の期待感と、ほんのちょっとの不安。その絶妙なバランスが日常と繋げてくれているはずなのに、話が進むにつれ不安は大きく存在感を増していき、気がつけば読み手もどこかへ引きずり込まれている。
一話が千字前後ですが、情報量は濃く、次は?、次どうなるの? 気になって仕方なくて、ズルズル物語に引きずり込まれていくこと間違いなしです。
物語の本筋も面白いのですが、登山についての知識や、保存食、登山家の料理など、所々に作者の知識の広さと深さを感じられ楽しめます。
そして、クトゥルフ神話に詳しくない私ですが、楽しんで読ませてもらっていますので、そこで身構えなくても大丈夫だと思います。もちろん、知っていればもっと楽しめると思います。
現実じゃないのに、どこまでも現実に入り込んでくる恐怖、是非とも味わってほしいです!