一定の速度で追いかける点Pにはなれなくて
音愛トオル
一定の速度で追いかける点Pにはなれなくて
テスト週間で、今日はお昼すぎには放課後になって。
私と
「ねえ~
「うん。今回の現代文はそこそこかも。でも私、ちょっと英語がやばくて」
「え~! 分かる……っ! 並び替え問題、ちょっと意地悪だったよね!」
「そうそう」
駅に向かう生徒たちの流れの中、周りの話し声が遠のいて、二人だけの時間になるこの瞬間が、私は好きだ。
「はぁ、帰ってからも勉強かぁ」
「明日までの辛抱だよ。終わったら、一緒にデートするんでしょ」
「へへ~、覚えててくれたんだ」
「……まあね」
スクールバッグがずり落ちそうなくらいげんなりする
それがどれだけ嬉しかったか、きっとこの子はちゃんと分かってないんだろうな。
「――ね、
「えっ、う、うん」
片腕を抱く私の背中に回った
だ、だって、こ、これって……? えっ、と、
「よし、着いた!」
「……えっ」
着いた、って言っても……ここ、坂道と階段しかないよ……?
「
「ぐ、グリコゲームって……あの、じゃんけんしてぱ、い、な、っぷ、る、とか言って進むやつ?」
「そうそう! ほら、ちょうど階段あるし」
ニコニコと私の横顔を覗く
確かに階段はうってつけの場所だけど、高校生にもなってこういう遊びをやるのは少し抵抗があるような気もして。
――でも、
「……テストで身体動かしてないし、ちょうどいいかも」
「え、ほんと! 言ってみるもんだね……」
「え?」
何はともあれ、私たちは高校2年生にしてグリコゲームをすることになった。正式名称はお互い知らなかったけど。
緩い感じでじゃんけんして、「ぐ、り、こ」とか「ち、よ、こ、れ、え、と」とか言いながら階段を上がって追い抜き追い抜かされを繰り返す。単純なそれが、気恥ずかしさよりも、
「
「あっ、う、うん。だね。じゃんけんしなきゃ」
その様子に違和感を覚えたけど、すぐにいつもの笑顔に戻った
「負けちゃった~、また差が開いちゃう」
「……だ、だね」
「……?
自分で言って、運動部の
じゃあ、体調が悪いとか……?
心配になって
それから、
「だ、い、す、き、だ、よ、か、な」
「――えっ」
私に背を向けた
時間が、止まった。
スカートの裾を掴んで立ち止まる
い、いま、何が――
「……ほらっ、つ、つぎ!
「え、あ、う、うん」
本来ならまたじゃんけんをしないといけない、けど。
私は震える指先で髪を掬う。いつか
ずっと、ずっと前から。
「……ゆ、い、だ、い、す、き」
「――! かな」
「……もう。ちゃんと、告白したかったのに」
私は、一文字に一段なんて無視して、言い終わるのと同時に
ああ、愛おしいな――
「私、ほんとに好きなんだよ」
「……あ、あたしだって。
「じゃ、じゃあ、さ。私たち」
「……うん」
ああ、なんて偶然。
長かった坂道は、あと四段の階段で終わる。
私と
ずっと、ずっと触れたかったその唇に。
「ちゅーしたい」
「私も」
大好きの気持ちを、触れ合わせた。
「……へへ」
「……ふふっ」
数秒後離れた唇から笑みが零れて、私たちは自然ともう一度、二度とキスをする。
それから、手を握って、指を絡めて。
二人で、同じ場所を見ながら。
「
「う、うん。なんかちょっと恥ずかしくなってきた」
「なんでよ! だってあたしたち今日から――ね?」
「……だね。恥ずかしがることなんてないよね」
そう、私たちは。
最後の四段、二人で息を合わせて。
こ、い、び、と。
と。
「――あははっ」
宝物を抱きしめるように、言葉にする。
少し前まで、私は私以外にも友だちが多い
友だちのまま、
――でも。
「大好き」と伝えても、グリコゲームのルールの上じゃ
問題の設定のままじゃ、点Qに追いつけないなら。
そんなルールには、従ってやらないって。
だって私は、
「大好きだよ」
「――あたしも、大好き」
ずっと
一定の速度で追いかける点Pにはなれなくて 音愛トオル @ayf0114
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