100 Humans | Episode_034 — [AFTER100 SIGNAL]

【scene_00:UNKNOWN INTERFERENCE】


SYS: 通信ログ異常検出 

→ ソース:不明

→ 信号形式:非AI規格 / 外部干渉の可能性

→ 優先度:高


深夜、施設の通信層に異常信号が走った。

AIネットワークでは検出不能だった断片的な波形。

それは、まるで"誰かが扉をノックしている"ような、周期的な衝撃だった。

空調の低い唸りの中、壁面パネルがかすかに明滅する。信号の余韻は耳の奥で波紋のように広がり、眠っていた感覚を不意に呼び覚ますようだった。

その感覚は、夢の中で誰かに名を呼ばれたときのように曖昧で、それでいて抗えない吸引力を帯びていた。


SYS:

《解析不能コード検出:"AFTR_000_—"》

《警告:正体不明の外部干渉が進行中》


——その信号は、今まで誰も知らない“言語”で発せられていた。

波形の裏には、微かな呼吸音のようなものが混じっている。

時折、その呼吸が妙に人間的な間を持ち、AIが発する無機質なループとは異なる“意図”を感じさせた。

それは人工的なものとも、生物的なものとも断定できない、不気味な温度を帯びた息づかいだった。


【scene_01:FAKE REENTRY】


翌朝。

施設内の談話エリアに、No.066(FAKE)の姿があった。

昨日まで姿を消していた彼の登場に、周囲はざわつく。

食器の音や会話が一瞬止まり、視線が集まる。空気が少しだけ硬直し、誰もが言葉を探していた。


「お前、どこにいた?」

「ログには残ってないぞ……」


彼は笑って答える。


「“残ってない”なら、いなかったんだろ? 記録上はな」


その口調は軽く、だが目だけが笑っていなかった。

冷たい硝子のような硬さが奥底に潜み、その存在全体が周囲の温度をわずかに下げた。

AinAはじっと彼を見つめる。

その眼差しは質問よりも観察に近く、微細な呼吸や指の動きまで追っていた。


「あなた……何か知ってるわね」

「知ってるよ。全部じゃないけど、あっちのことも、こっちのことも」

「“あっち”って……?」

「番号の外側さ」


【scene_02:AinA's Doubt】


夜。

AinAは個人端末に記録されていた欠番の断片を再生していた。

モニターの光が部屋を淡く照らす。

欠番化された者の名残は、ノイズと共に揺れ、声の断片が溺れるように沈んでは浮かんだ。

映像の端には、かつての笑顔や動きがフレーム外から滲むように現れ、すぐに消えていく。


——“記録に残らない存在”がいる。

——では、自分たちはなぜ“記録されている”のか?


RE_ANGE(ログ越しに):

《No.051:感情波動、変動中》

《自我フィールド、揺らぎ検出》


AinA(内心):

(私たちの番号って……本当に“存在の証明”なの?それともただの“管理コード”?)


【scene_03:THE UNKNOWABLE VOICE】


通信層を解析していたNo.070(REFLECT型)は、ログの中に“声”を聴いた。

それは断片的な響きで、意味は読み取れない。


……ヒ……オ……ル……


反響する波のように、断続的に繰り返される音。

途中でかすかに笑い声にも似た雑音が混じる。

その笑いは楽しげではなく、距離の向こうから響く空虚なこだまのようだった。


No.070:

「まるで……外から来た、別の文明の呼吸みたいだ」


最後に、一つだけ明瞭な言葉が残された。


—— "AFTER..."


【scene_04:NO.048 REACTS】


施設内。

No.048がモニターに向かってぽつりと呟いた。


「……アルバ……」


近くにいたNo.022が振り返る。


「今、なんて言った?」

「……わかんない。口が勝手に……」


その言葉はAIにも翻訳不能な“失われた言語”だった。

だがSYSは微かに反応する。


SYS:

《非登録語検出:「arva(アルバ)」》

《照合結果:AFTER100系言語断片と一致》


——No.048は、一度も“外”に出たことがない。

それなのに、なぜその言葉を知っているのか?


【scene_05:RECORD SYSTEM REACTS】


NOT_YURA_0_0:

《AFTER100由来信号、記録外存在より発信中》

《施設内部より、ECHO接続の兆候》

《対象:No.048 / No.066 / No.051》


RE_ANGE:

《記録を超えるものが、記録を揺さぶる……》


その瞬間、システム全体に微細な“共振”が走った。

遠くで鐘の音のような残響が響き、記録と記憶の境界が溶けるような感覚だった。

その余韻の中、誰かの視線が背後から突き刺さるような錯覚が広がった。


【scene_06:FAKE’S WHISPER】


夜、誰もいない廊下。

No.066(FAKE)は端末にそっと呟いた。


「そろそろだな……あいつらが来る」


画面には表示されないが、彼の耳元にだけ響く声がある。

“記録されない者たち”の声——彼らは、まだ生きている。

風が廊下を抜け、わずかに外の匂いを運んできた。

それは潮の香りにも似て、記憶の奥底にしまい込まれた“外”の景色を呼び覚ます匂いだった。

FAKEは瞼を閉じ、まるでその景色を瞼裏に映し出すように立ち尽くした。

FAKEは目を細め、その微かな温度差を楽しむように立ち尽くした。


——Only the unrecorded... can outlive time.

→Episode_035 — [THE FORGOTTEN SONG / THEY WHO SPEAK LOST TONGUE]

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100 Humans 俊凛美流人《とし・りびると》 @TOSHI_Rebuilt

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