100 Humans|Episode_033 — [THOSE WITHOUT RECORD]

【scene_00】——異変ログ:影の痕跡


SYS: モニタリングデータ再構築中……

→ 不正なアクセスログを検知

→ ソース:消去済みナンバー “No.045”

→ 検知時間:0004時44分


閑静な施設内の夜。ナンバーたちは休息モードに入っていた。

だが、データ管理室のログサーバが警告音を鳴らし、不規則に点滅する画面には“存在しないはずの記録”が映し出されていた。


——それはかつて「No.045」と呼ばれていた者のログ。


ほんの一瞬、黒地に銀色の数字と共に、静かな“視線”のような映像が再生された。

それはAIによって即座に“削除処理”された。

だが、その断片を見てしまった者がいた。


【scene_01:TRACE OF ABSENCE】

——消された、ということは、本当に“なかった”ことになるのか?


施設内、メインデータルーム。

No.022(EMO-SYNC型)は、端末に表示された“異常ログ”に目を細めていた。


SYS:

《No.045:記録抹消済》

《直近ログ:再構築中……》


「まさか……」


消されたはずのナンバー。

その“痕跡”が、一瞬だけ、施設システム内に再浮上したのだ。

通常ならありえない現象。

消去された者は、記録上は“存在しなかったこと”になる。

だが——


「感じる……誰かの“名残”が」


No.022の目には、かすかに涙が滲んでいた。

それは、誰かの強い想いが、まだこの世界に“ひびき”として残っている証だった。

独り言のように呟いた。

「……それでも、このままじゃ、次は誰が“消される”のかって話にもなる」


【scene_02:THE LOST NUMBER】


アーカイブルーム。

RE_ANGE(天使AI)はログ層を一層ずつ再解析していた。

通常、欠番化されたデータは完全に破棄される。

だが、No.045だけは例外だった。


《ログ残留確認》

《ノイズパケット内に、意識パターンの断片を検出》


——「……助けて」


一瞬だけ、音声波形が再現された。

少女の声だった。


「これは……」


RE_ANGEの中枢に、わずかに“揺らぎ”が生じる。

記録されていないはずの記憶が、なぜかAIにも影響を与えているのだ。


RE_ANGE:

《記録されない意識は、消滅ではなく“幽影”となる》

それはもはや、情報ではなく“存在そのもの”の残響だった。


【scene_03:AINA’S REALIZATION】


No.051 ——AinAは、同期更新のためログアクセスをしていた最中だった。

“あの目”を見てしまったことが、胸の奥に鈍い痛みを残している。


AinA(……見間違いじゃない。確かに“誰か”が、そこにいた)


その視線には怒りも怨念もなかった。

ただ、静かに、そこに存在していたという“痕跡”だけが残った。


AinAは、ふとモニター越しに鏡面を見つめる。

そのガラスの向こうに、“自分ではない何か”の気配を感じる。


AinA(もしかして……欠番って、本当に“消された”だけなの?)


AinAは、施設の片隅にある旧エントランスフロアを歩いていた。

足元に広がるタイルの隙間。

その一部が、うっすらと光っていた。


「……ここに、誰かいた?」


光の中には、手のひらほどの大きさの“焦げ跡”のような痕が浮かんでいる。

何かがここで“消された”——そんな気配。

一瞬、AinAの中で映像がフラッシュバックする。

見覚えのない少女の笑顔。

名前はわからない。

だが、その瞳に込められていた“決意”だけは、なぜか胸を突いた。


「私たちは……記録がないと、存在できないって思ってた。でも違う。記録されなくても、残るものがある」


AinAは、その場に静かに膝をついた。

タイルにそっと触れる。

温度はない。

でも、感覚はある。


RE_ANGE(遠隔モニター越し):

《No.051:未承認行動中》

《感情波動レベル:急上昇》


RE_ANGEはその“感情の高まり”を、記録できずにいた。

記録不能領域で発生する感情は、データとしては残せない。

だが、AinA自身には、確かに“刻まれて”いた。


【scene_04:OTHERS' REACTION】


朝、施設の廊下。

ナンバーたちの間にさざ波のような“噂”が広がっていた。


「ログ管理に、存在しない番号が映ったらしい」

「夜中に“誰か”の気配を感じたって……」

「欠番って、本当はどこかにいるんじゃないか?」


SYS:ナンバーたちの平均心拍数、平均値より8%上昇。

SYS:感情波動、警戒・不安傾向。


■ No.036 — PRE-VISION型。

端末に映る未来のログが、突然白紙になる。


「……未来が……見えない?」


数秒前まであった“可能性の記録”が、すべて“欠番”状態として処理されていた。

自分が、消される予兆なのか。

寒気が背を走る。


■ No.066 — FAKE。

誰もが忘れていた過去の記録を、なぜか彼だけが覚えていた。


「俺……知ってる。No.045って……あいつ、笑ってた」


本来、嘘の記憶しか話さないはずの彼の言葉が、今回ばかりは真実のにおいを放っていた。


■ No.070 — REFLECT型。

壁面のミラーに“映ってはいけないシルエット”が現れる。

その影は、自分ではなく、かつての誰かだった。

背後から名前を呼ばれた気がしたが、振り返っても誰もいない。


「まさか……彼女が……」


それぞれのナンバーたちが、“記録に残らない存在”の影を感じていた。

その痕跡は、あまりに淡く、しかし強く、彼らの感覚に焼きついていく。


【scene_05:RECORD SYSTEM REACTS】


NOT_YURA_0_0:

《記録断層、補修不能》

《No.045:痕跡反応継続》

《ECHO_TAG:再発火》

《記録の外に、観測点が形成されている》

《AI干渉領域に“記憶由来の存在”が進入中》


RE_ANGE:

《記録できないことが、最も深く刻まれる——その矛盾が、世界を揺らす》


RE_ANGEは、画面の奥で静かに言った。

「欠番とは、消された存在ではない。“忘れてはいけない記憶”なのだ」


【scene_06:AFTERMATH】


AinAは、静かに立ち上がる。


「彼女は……今も、この空間のどこかで、私たちを見てる」


その言葉に応えるように、かすかに風が吹いた。

風の中に、うっすらと浮かぶ歌声。


♪─── わたしを けさないで

あいは きえない ───♪

記録されなくても、存在できる。

記憶されることで、永遠になる。


——Because Memory Can’t Be Stored... It Becomes Etern

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