第3話 図書館にて

 二つ目のコンビニを出て、上からの太陽の日差しと下からの熱せられたアスファルトの放射熱に身を焼かれて歩くこと約十分。


 ようやく、ようやく、図書館に着いた。


 いやー、ここまで長かった。歩いた時間はせいぜい二十分ちょっとってところだけど、何せこの暑さだからな。下手したら、春とか秋に一時間歩くのよりも体力使った気がする。


「……はぁ、はぁ、や、やっと着いた」

「ねーちゃん、さすがにへばりすぎ。もうちょい体力付けたら?」

「う、うっさい……」


 ありゃま、まともに口答えする体力もないみたいだ。


「とりあえず、図書館入ろっか」


 そうして、俺は図書館に入る。


 ここは規模の大きな市図書館ではなくあまり大きくない町図書館なので、蔵書数は市図書館よりも少ない。


 しかし、他の図書館と違って、漫画やライトノベルの種類が豊富なのがこの図書館の魅力だ。しかも、結構定期的に新刊や最近話題になっている本だったりを仕入れたりしている。


 俺も小学生の頃は月一くらいの頻度で通っていた。中学生になってアニメにはまってからは本をあまり読まなくなって、図書館にも行かなくなったけど。


「ふわぁ~、最高~」


 図書館に入るなり、ねーちゃんは気の抜けた声を出す。まあ、気持ちは十分理解できる。


 それにしても……図書館って、なんか落ち着くな~。


「なんか図書館ってさ、独特なにおいというか、雰囲気というか、そういうのがあるよな」

「あー、何かわかるかも。本の匂い……インクとか、紙とか、そういうのが混ざった感じの匂い? あと、静かな空間だから、独特な雰囲気があったりするのかも」

「まあ、何でかはわからないけど、なんか、なんとなく落ち着くんだよな」


 上手く言葉にはできないけど、こう、なんというか……静かでゆったりとした空気というか、雰囲気というか。そういうのが、俺、好きなのかもな。


「とりあえず、あんたの読書感想文用の本を探しましょう。課題図書って何かあるの?」

「ああ、あるある」

「じゃあ、それを探しましょうか。確かあそこに本探す機械があったから、そこで入力しましょう」

「ほ~い」


 そうして、俺は図書館の中央辺りにあった本を探す機械(名前はわからない)の方へと向かう。


 そういえば、今気が付いたけど、なんとなくいつもより小・中学生が若干多いな。夏休みだからかな?


 まあ、平日だから人自体が少ないけど。


「さて。じゃあ、ここにその課題図書の作品名を入力して?」

「は~い、えーと、確か……」


 課題図書の作品名、何だっけな……確か、僕の心は、いつも……不透明? だったっけ?


 確か、去年に何かの賞を受賞した感じの小説だったような気がするんだけど……


 俺は曖昧でうろ覚えの記憶の中から出した作品名を、そのまんま機械に入力する。



・一件の該当作品が見つかりました



「おっ」


 作品名が合っているか自信が無かったが、ちゃんと正しい作品名だったようだ。画面に一件の該当作品が表示された。


「えーと……あっ、よかった、貸し出し中じゃなかった」

「それで? どこにあるの?」

「えっとね、児童図書コーナーの辺りみたい」


 そうして、俺は現在地の右側にある児童図書コーナーの方へと向かう。


 児童図書コーナーだから、他と比べて小・中学生の数が多いな。あと、ちっちゃい子を連れている親とかも。


 俺は辺りを見回してそんなことを考えながら、さっき機械に表示された館内マップを頼りに課題図書を探す。


(えーと、多分ここらへんなんだけど……)


「あっ、あった!」


 俺は児童図書コーナーの中学生対象図書コーナーを探していると、そのコーナーの中にある『今年の中学生の課題図書』と書かれた場所に俺が探していた本はあった。


 題名は『僕の心はいつも不透明』。うん、これで間違いなさそうだな。


「あった?」

「うん、あったあった」

「じゃあ、借りてきなさい。ちゃんと図書カードは持ってきた?」

「大丈夫、持ってきてる」


 そうして、俺は本の貸し出しをするために貸出口へと向かう。


 財布から図書カードを出して本と一緒に司書さんに渡し、本の貸し出しを済ます。


 図書カードをしまいながら振り返ると、俺の後ろにねーちゃんがスマホを片手に立っていた。


「貸し出しできた?」

「うん」

「そう。あっ、そういえば、今母さんから連絡来たんだけど……」

「えっ、なんて?」

「『四時くらいには帰って業者呼んでおくから、それまで好きにしてていいよ~』だって。どうする? まだ一時間以上時間あるけど、何かやりたいことある?」


 どうするって言っても……特にやりたいことなんてないしな。


「図書館で時間潰すとか?」

「やりたいことないってことね」


 俺が適当な案を出すと、ねーちゃんにやりたいことはないと速攻で決めつけられ、それに少々ムッとする。


 まあ、その通りなんだが。決めつけられるのはなんか違う気がするんだ。


「そういうねーちゃんはなんかやりたいことあんのかよ」


 イラっとしたので少し嫌味っぽく聞き返す。


 しかし、ねーちゃんは俺の予想とは違った返答をする。


「あるよ。ここから五分くらい歩いた場所にあるカフェなんだけど、そこ、夏限定でかき氷が売ってるの……ほら、これ」


 ねーちゃんはそう言って、スマホの画面を俺に見せる。


 そこには、ねーちゃんが言っていたであろうカフェのかき氷の写真が。


 赤いのでおそらくイチゴ味のかき氷のようだが、屋台で見るものより一回り大きい。さらに、凍ったイチゴを粗く刻んでかき氷の中に混ぜており、一番上には大粒のイチゴが乗っている。練乳もたっぷりとかかっており、冷たくて甘くてとても美味しそうだ。


 ……食べてみたいな。


「私、ここ行きたいんだけど、良い?」

「……美味しそうだし、俺も行きたくなってきたかも」

「よし、じゃあ決まりね。じゃあ、出発~」

「ゴ~ゴ~」


 

 ◇◇◇◇◇◇



「……はぁ~、冷たくて美味し~!」

「最高だな~」


 カフェに来た俺たちは早速かき氷を二つ注文し、ついさっき来たので食べているところだ。


 写真で見た時から美味しそうとは感じていたけど、予想以上に美味しかった。


 ゴロゴロと粗く刻まれた冷凍イチゴとふわふわの氷、濃厚なイチゴシロップと練乳を同時に口に入れると、幸福感と満足感でいっぱいになる。


 俺は、冷凍イチゴが甘酸っぱくてシャーベットみたいにシャリシャリしてて、一番好きかも。


 今まで屋台のかき氷しか食べたことが無くて、こんな本格的なかき氷食べたことなかったけど、全然違ったな。


「あれだね。クーラー壊れたときは結構絶望したけど、このかき氷が食べれたから結果オーライだったかもね」

「そうだな。たまにはこういうのもいいかも」


 かき氷にスプーンを突っ込んでそれを口に運びつつ、ねーちゃんと俺はそんな話をする。


 確かに、クーラー壊れたときはどうしようかと思ったけど、外出てみたら案外楽しかったし。


 まあ、夏は暑いけどこういうのもいいのかもな。


「じゃあ、またどっか出掛ける?」

「ん~、でもやっぱり、暑いのは嫌だよね」

「そうだな」


 それには激しく同意する。


「だからさ。次どっか出掛けるとしたら、クーラーの効いた車で、かな!」

「じゃ、次は家族みんなでドライブだな! だとしたらどこ行く?」

「んっとね~、あっ! それなら……」


 そうして、俺とねーちゃんはしばらく次のドライブ計画についてひとしきり話したのだった。




 ……ちなみに、その後、会計時にかき氷が一つ千円以上することに気が付いた俺たちは、泣く泣く札を一枚ずつ財布から出し、二度と本格的なかき氷は食べないと心に誓った。


 ……かき氷怖いっ!

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夏にクーラーが壊れた場合の涼み方 啄木鳥 @syou0917

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