天井のしわを数える

星屑肇

天井のしわを数える

雨がしとしとと降るある午後、アヤは自分の部屋の天井を見上げていた。暗い雲に包まれた空は、外の世界を薄暗くしている。彼女はベッドに横たわり、日常の喧騒から解放された瞬間を楽しんでいた。


この部屋は彼女が幼い頃から使っているもので、白い壁にはところどころ小さな傷や汚れがついているが、それさえも彼女にとっては愛おしい思い出の一部だった。天井を見ると、真っ白のペンキが塗られたその表面には、いくつかのしわができているのが見えた。アヤは無意識にそのしわを数え始める。1、2、3、4……と、指でなぞりながら思考を巡らせる。


彼女は高校を卒業し、大学生活を始めるべく新たな一歩を踏み出す準備をしているが、何かとストレスを感じていた。進学先の選択や将来への不安が彼女を押しつぶしそうになる。そんな時、彼女にとって安心できるのは、この部屋の中だけだった。


「4、5、6……」と数え続けるうち、アヤは次第に心を落ち着けることができた。しわは、年を重ねた証であり、時間の流れを感じさせるものでもある。最近の焦りや不安も、この天井のしわのように、いつかはなかったことになるだろう。


しわの数を数え終え、アヤはその小さな世界の中で心を解放することができた。彼女は隣の窓を見ると、外では雨に濡れた緑が輝いているのが見えた。思わず目を細め、その美しさに心が和む。自分の悩みや葛藤が小さなものであることを実感した瞬間だった。


「そうだ、どうにかなるさ」と彼女はつぶやいた。アヤは起き上がり、机の上に置かれている大学の入学案内を手に取った。新しい世界が広がっている。少しずつ勇気を持てるように、自分自身を奮い立たせる。天井のしわは確かにあったが、それは彼女の未来を閉ざすものではなかった。


外の雨が止むと、空に薄曇りの青空が顔を出した。アヤは部屋を出て、光が差し込む廊下を歩いた。新たな出発に向けて、彼女は力強い一歩を踏み出す準備を整えた。天井のしわを数えることで、自分自身を見つめ直し、明日への希望を抱くことができたのだ。


「次は何をしようかな」と彼女は笑顔で思い描く。未来は、彼女が今どれだけ進もうとするかによってゆっくりと形作られていくのだ。アヤは、天井のしわの数を心に留めつつ、新たな冒険の旅へと歩みだした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

天井のしわを数える 星屑肇 @syamyu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ