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それから僕はエリナの遺書を書いている。金を払い、エリナを抱き、互いに果て、しばらく経って落ち着いたころ、書いてきた遺書を見せた。 だが、エリナはどれを見ても納得しなかった。
僕が最初に書いた遺書は、海外の有名なミュージシャンの遺書のオマージュだった。エリナはそれを、クソつまらないと一蹴した。僕はその場で書き直そうとしたが、エリナが、「遺書の提案は一日ひとつまでね。それ以上はダメ。その場での訂正は認めない。一撃で私を納得させて」
「厳しすぎない?」
「人生最後の文章だよ。死ぬ理由だよ。一撃でドカンじゃないとダメ、ぐちゃぐちゃ考えて、推敲するなんてなんか違う。一発で心に響いて、これだ! って、やつじゃないと」
「よくわかんないです」
「とにかく、一回に会うたびに、一案ね。それで私を納得させて。納得出来たら採用するから」
「努力します」
「お願いします」
それから何度も会ったが、一度も採用されていない。
僕は今日もエリナの遺書を書く。書きあがったら、エリナへ連絡する。エリナは会う日を指定してくる。僕はその日に合わせて休みを取る。
僕は書きあがった文章を見つめる。つまらない文章だ。だが、それでいい。きっと、エリナもそう思ってくれると思う。そうであってほしい。
時刻を確認する。バイトの時間だ。本業はあるが、エリナに会うための金が足りないので、昼夜問わずに働いている。エリナに会えるのは、月に一度だけだ。僕のほうが先に過労で死ぬかもな。そしたら、エリナは死ぬのをあきらめてくれるだろうか。 僕は、顎が外れそうなくらい大きなあくびをした。
細く頼りない涙が頬を伝った。
90分、3万円 藤意太 @dashimakidaikon551
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