第五章 再起動するライン
復職初日、朝の現場は変わらず金属の匂いが漂い、床に油の光が残っていた。
悠真はゆっくりとラインへと足を運ぶ。そこには、かつて彼が設計したドアインナーパネルの治具が今も正確に稼働していた。ピックアンドプレースロボットが治具に部品を供給し、溶接ガンが寸分違わず動きを合わせる。
(まだ、動いてる……)
治具のプレートに刻まれた微かな傷さえも懐かしい。それらが、悠真の時間と技術の証だった。
ロボットアームが動くたびに、かつての自分の判断が今もラインに息づいているのを感じる。干渉を避けた軌道。タイミング調整の冗長性。作業者の視線までを想定したレイアウト。
誰も気づかないような工夫。それこそが悠真の仕事だった。
(ここに、確かに“俺”がいる)
その頃、家庭でも段ボールの工場が再起動していた。ことねが妹・ひかりに話しかける。
「これはね、おとうちゃんがつくったラインなんだよ」
ひかりがきゃっきゃと笑う声が、リビングに響く。
夕食の支度をしながら、朋子はその声にふっと微笑んだ。
仕事と家庭。二つの現場。
今、どちらも“自分のライン”として、悠真の中で動き始めていた。
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