番外 急変
ある日の朝、義父の入所しているホームから電話があった。父が急変したという。
慌てて駆けつけることに
翌日、誰の手を煩わせることなく義父は逝った。享年97歳
良くしていただいた職員の方から、義父が預けたという手紙を渡された。
封筒には「遺言書が入ってる。 裁判所なり然るべき場所で検認してもらう事」と表書きしてある封筒、わざわざ所轄裁判所の電話番号まで書いてある。それとは別に便箋も入っていた。
裁判所に電話すると期日を指定され、必要書類(既に封筒に入っていたが)を用意し、それまで封を開けないようにと言われる。
「これを読んでいるということは俺は死んだんだな。残念。さて封筒の方は裁判所でな、実子がいるから面倒だろ、きちっとしといた方がいい。開けてのお楽しみだ。さてお前はこれから葬式とかの準備なんだが、その前に家に帰り俺の机の左側の一番下の引き出しを見ろ。俺の希望と全てがそこにある。手にしても海賊王は目指すなよ じゃ がんばれよ。」とあった。
ふざけた義父だ。
言われた通り実家に戻り、その引き出しを開ける。鍵も何もない木製の引き出し。
中にはクリヤブックに閉じられた書類の束があった。
1)初日編 通夜
2)二日目 葬祭
3)遺産相続に関して
延々と父の希望が記載されていた。斎場はどこ その支払いはどこの口座から出せる 自分への弔辞等々 用意周到 もう笑うしかない。
初日編をもってホームに戻り、段取りを進めることにした。
1ページ目に父さんの最も大事な、僕に伝えたかったことが記してあったからだ。
『金や物を繋いでも無意味だ。最後の最後でいい。さすが和也だ。さすが寿吉の、政夫・真美の子だ。と言われてくれれば、それが何であっても、俺の人生最高の栄誉だ』
職員の方も「らしいですね」と言ってくれた、きっと褒めてくれたんだ、良かったね父さん。
おかげでつつがなく通夜葬儀は進み、少ないながらも駆けつけてくれた参列者と共に偲んだ。
斎場の司会者が弔辞を読み上げる、相談した時戸惑っていたようだが「そういう父でした、本人の希望ですのでお願いします」と
「それでは弔辞を頂戴しておりますが、本人不在のため代読させていただきます」
ざわつく参列者 司会者のゆっくりとだが聞き取りやすくやわらかな口調で続く
「参列者の皆様、面倒な式はさっさと終わらせますので、今しばらくお時間ください。なお、携帯電話はマナーモードから通常にお戻しください。仕事の電話はすぐ出ましょう。さて、見渡してみますと、あれだけ遊んだ友人連中が少ない。みんな薄情だな、と思ったのですが、先で待ってくれているようですので少し急ぎます。
故人は愛媛に寿吉家の長男として生まれ、『優秀でありたい』と願った成績で高校まで過ごしました。18歳で兵庫に大学入学して以来、8年にわたる熱心な活動により大学を中退し、勘違いと自惚れから自営を始めました。参列者をはじめ、先に逝った方も含め、皆様のご尽力により盛り立てていただき、なんとか結婚を2度もすることができました。感謝の言葉もありません。憂いがあるとすれば、この後の食事を何にしようかと悩むばかりでございます。
さて、そろそろ良いお時間となりました。先に逝った真美も『お父さん、長い』と言っております、が、『俺はお前のお父さんじゃない、旦那だ』と申し残しておきます。肌寒いですが、次の会場では炎を用意しておりますので、お温まりください。
あの世代表、寿吉 政夫より、溢れる感謝の言葉とともに。
壽𠮷の終わりに、始まる家族 壽𠮷 和也 @kotobukiyosi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
近況ノート
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます