店長がカ〇ヨムの感想コメントに風俗広告スパムを書き込んでいるのを見てしまった俺の気持ちについて相談したい
かたなかひろしげ
風俗レビュー
「それでね。もう悪口のレパートリーが尽きてるわけ」
店の裏口を出たところで電子タバコを吹かしながら、今日もアケミさんは俺に悪態をついていた。本来であれば中途半端にエロいはずのそのキャミソール姿は、ヤンキー座りでタバコを吹かしている時点で、なにもかもが台無しになっていた。
だが、アケミさんが店の個性豊かな客に悪態をつくのは、ほぼほぼ毎回のことなので、俺の方も相手としては手慣れたものである。ここで求められているのは、共感と同意であり、もしうっかりと上から目線で前向きなアドバイスでもしようものなら、汚物を見るような眼で睨まれるのが関の山だ。人には身の丈にあった態度というものが必要なのだ。
───それもこんな場末の風俗店の裏口前では、特にだ。
「田野さん、まーた仕事サボってネット小説読んでるんですか?」
アケミさんのストレスのはけ口という大事な一仕事を終えた俺は、缶コーヒーを片手に事務所に戻った。ヤニで煤けた事務所の黄色い壁紙からは、この部屋が禁煙になった今でも、据えたタバコの匂いを部屋に漂わせていた。
広くない部屋の真ん中で、年代物のノートパソコンを叩いている店長を、俺はからかうように話しかけた。
学生である俺と比べて店長の年齢は、多分俺の親よりも上だろう。そんな年の離れた俺のちょっと失礼なツッコミも、大人の余裕だろうか、この人は笑顔で受け流してくれる。
「いやあ、こういう最近の小説投稿サイトも案外侮れないものだよ、シバタ君」
「へー。ちなみに今は何読んでるんすか、ってエロ小説じゃないですか。毎日、店で姉さん達の裸見てるのに、小説でエロ読んで楽しかったりするんすか?」
「シバタ君もまだまだ若いな。生ものより、こういうのからじゃないと得られない栄養ってのがあるのだよ」
「んんー、そういうものなんすね。まだ自分にはわからないす」
俺がバイトしているこの店は、所謂、風俗店というやつだ。ちなみにちょっと特殊な性癖の人をターゲットにした店でもある。
バイトは大学が終わった夕方から入るが、来るのはほぼ決まった常連客ばかりなので、こうして決して客のこない隙間時間みたいなものが発生する。かくして店長と俺はこうして事務所の奥でたった一台のノートパソコンを前に、無駄話に花を咲かせているわけだ。
「それでな、俺はこの無駄な空き時間の有効活用のために、せっせとこうしてスパム広告を、小説のコメントに投稿しているわけだよ。」
みれば店長は、サイトの検索窓に「風俗」と入力して、検索結果に返ってきた小説の応援コメントに、ひたすらウチの店の広告を投稿していた。
「えー、こんなとこに宣伝コメント書いてるんですか。だってうち風俗店っすよ。
これってつまり、キーワード検索で「風俗」って言葉がたまたま含まれてた小説に片っ端から、広告打ってんすよね。それってただのスパムってやつじゃないすか。消されて終わりだと思いますよ。」
そう。このサイトを品行方正に使っている人には、いい迷惑に違いない。
かといって、変な正義感を発揮して店長の不興を買うのも良くはない。何を隠そう、俺は別に聖人君子ではないのだ、見つけた間違いを片っ端から正して回る程、病んではいない。この適度に暇なバイトを、俺は気に入っていた。
「あ、でもこのサイト、スパムは投稿者自身がコメント削除する必要があるんすね。じゃあバレない可能性もギリあるってことっすか。」
微妙な空気を誤魔化すように、俺はフォローになっていないフォローを入れておいた。スパムであっても応援コメントとしてカウントされるのであれば、もしかしたら歓迎する人もいるかもしれない。勿論、例えば自分の書いた青春恋愛小説に、風俗店の広告コメントなどを書かれても気にしない様な人がいればの話ではあるが。
特にこんな、所謂なろう系の小説ばっかりのってるサイトで、ウチの広告に引っかかる奴なんていないに違いなく───
「あれ?広告だけじゃなくて、ちゃんとしたコメントも書くんすね。」
よく見れば店長は、とあるエロ小説にやけに長文の感想コメントを投稿しようとしているところだった。
えーと……『この濡れ場のシーンのセリフが全然ダメです。女はこんな時にそんなこといいません、こんなことしか書けないのあれば、もう豆腐の角に頭ぶつけて死んだ方がいいと思います。あ、それだと豆腐が勿体ないですね』。
こ、これは酷い糞コメントだ……
まるで内容に具体性のない批判と、あまつさえ人格否定までしてるし、アウト過ぎる。これが、コメハラ─── コメントハラスメントというやつかもしれない。
「て、店長、流石にその内容はヤバイですよ。下手したら訴えられちゃいますって!」
前言撤回。正義感とか発揮しないとかさっき言った気がするが、これはあまりに酷い。
「いや、これはこういうプレイなんだよ。ウチでもアケミちゃんがよくやってるだろ、言葉攻め!そう言葉攻めなの!」
「へ? だって、これ投稿してるのは、そこらへんの無関係な人ですよね?」
「……それが違うんだよ。これ、ウチの常連さんのアカウント。この罵倒コメントもお客様サービスなんだよ。」
「ってことは、これ、店で頼まれてやってるんすか? あの広告荒らしも?」
「うん。なんか、コメント欄荒らされると、ゾクゾクくるらしい。更に大勢の人が見てるサイトで、意味のない罵倒とかされたら、もう物凄く気持ちよくなっちゃうらしくて。エロが本職だからね、おじさんも。負けられない気持ちで頑張って罵倒してるわけ」
「……」
「で、このお客様なんだが、勿論ちゃんとお店にもあとで来てくれるんだぞ。店頭でも言葉攻めを嬢に要求してくるんだが、しっかりオプション料金つけてくれるしな。その分、最近アケミちゃんが荒れてるけど。さっき、アケミちゃんの愚痴聞いてくれてたろ? 罵倒文句のレパートリーがもう尽きてきた、って。あれだよあれ」
店長はなんだか嬉しそうに話し続けている。
「うちの店はそもそもM向けの特殊性癖風俗だろ? こういう常連様を大事にしないとやってけないのさ。知ってるか? このおっさん、W大学文学部の教授様だぞ」
「まじすか」
「でもな毎回この人のエロ小説にだけ、目ざとく広告貼ったりしてると、なんか運営から作者の方も規制喰らうらしいんだ。それを誤魔化すために、他のエロ小説にもわざわざ広告スパムを投稿してる、ってわけだ。
だから罵倒コメント書くのは、あの先生の小説だけにしてるんだぞ。他の人、傷つけるのはよくないからな。最低限のマナー?ってやつだ。
あ、これ豆知識だけどコメント欄に広告書くついでに★3つけておくと、作者にバレても案外消されないんだぜ。覚えとき」
情報量多いな。いくらなんでも特殊性癖すぎるだろ。それ。
「しかも、読み合いもしてくれてさ、この教授。俺の中国文学のエッセイにもいいね押してくれるんだ。すげー、いいひと。流石は教授だよなー」
「え? 初めて聞きましたよ、店長にそんな趣味があるなんて。どうしてそんなガチめの書いてるんですか店長。」
そこから、如何に中国文学がエロいかを小一時間力説されたあげく、この罵倒コメント担当は、俺も回り持ちさせられることになってしまった。
どうやらこのままでは俺もこのバイトを続けていると、うっかり新たなドS性癖の扉が開きそうである。
店長がカ〇ヨムの感想コメントに風俗広告スパムを書き込んでいるのを見てしまった俺の気持ちについて相談したい かたなかひろしげ @yabuisya
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