厳しい寒さの中のワンシーンを綴った短編小説です。
冒頭の淡々とした描写が、静かに作品の舞台へ読者を誘ってくれます。
寒々とした外の様子を眺める視覚。
ニュース番組から流れる声を捉える聴覚。
そして聞こえた声により浮上する感情。
たった三文で、作品の舞台、語り手のいる場所へ連れて行ってもらえたように感じました。
語り手が天気予報を眺める様子を通して、自然と舞台がデンマークという寒い地域であることを示しているのも巧みです。
何より、少ない冒頭の描写の中に、語り手の抱く寂寥感を感じさせる表現が散りばめられており、彼の心の近くに寄り添うことができました。
見知らぬ土地の厳しい寒さと孤独が、漠然と語り手を不安に、気弱にさせていることが皮膚感覚として感じられるような文章。
時間もゆっくりと流れているよう。
特別なことが起こるわけではないですが、しんしんと伝わってくる物悲しさと、だからこその人肌の温もり、そしてゆったり流れる時の感覚が心地よく、ずっと読んでいたいと思えました。
語り手が不安を覚えていた雪ですが、その美しさが、そしてそれを1人で眺めることが、語り手を前向きにするという、ささやかだけれど確かな変化も、素敵でした。
美しいものを1人で眺める、その特別感がよく伝わってきます。
「外れない天気予報」のくだりも、物語でとてもよく機能しているなと思います。
肌に感じられる寂寥感とぬくもり、そして光が差すような感覚。
五感を通して語り手の心模様が感じられる素敵な作品です。