コースター『トム・ブラウン』
茶村 鈴香
ジェットコースター トム・ブラウン
いい歳して、漫才コンビのトム・ブラウンにハマっている。と言ってもファン歴一年くらいのニワカの私が、今更何を言う、だけど。
はじめはネタ番組「有吉の壁」でシュールなネタを見て「だれっ」と思い、名前を知り、Youtubeで検索し、独特の漫才やそれぞれの経歴を見てハマった。
ボケ担当の“みちおさん”はカクヨム でファンタジー小説を書き、受賞されている。
ツッコミ担当の“布川ひろきさん”がはじめて書いた(?)という短編小説「コナファギャンワアイランド」も言葉遣いが独特で面白い。現在も他誌のwebマガジンにエッセイも連載していて、独特の視点と柔らかい文体が楽しい。
言葉に対して独特の感覚がある二人だが、『ネタ』は言葉の運びもすごいけど動きが印象的なパワーあふれるもの。何せ二人共、柔道部の先輩、後輩だ。スピード感もすごくて、情報量が多すぎて、設定はわかるけど、あとはフィギュアスケートのスピンみたいに、回転を上げていき、突然に「決まって」終わる。
お笑いブームの中でもことに異彩を放つと言われるトム・ブラウン。彼らの演目の面白さを説明するのは、難しい。一度観て好き嫌いがかなりはっきり分かれるようだ。私も直感的に面白いと思うので、なおさら言葉にできない。
あえて言えば、本来漫才は「聞いて」楽しむものだと思うのだが、彼らの漫才は聞きつつも「見て」「没入気味にイメージして」楽しむものだと思う。他にも"真空ジェシカ”“フースーヤ”なども画面を見ないと何が起きているかわからないし、M-1(賞レース)2連覇した“令和ロマン”も演目によっては音声だけではわからない。しゃべくり漫才と漫才コント、という分け方もあるようだ。
しかし群を抜いて、トム・ブラウンの漫才(漫才コント)からは一瞬たりとも目を離すことが出来ない。
ジェットコースターがどんなふうに楽しいのか、乗った人の話を聞いてある程度は想像出来るけど、乗らなければ面白さはわからないのと、それは似ている。自分で体感するしかない。
いくら細部を説明しても、理解できないか或るいは見聞きしても好みでない人もいるだろう。人が猟奇的に殺される描写が頻出するネタもあるし、繰り出されるツッコミは叩いた方の手が痛むほど思い切りだし。猟奇的とか怪奇的だとか暴力的な表現と見る意見も否定は出来ない。
しかし目の前で見ると、暴力や脈絡のなさより半端でない『熱量』が伝わってくる。非常に細かいけれど、つじつまも合うように作ってある。熱量はTVよりライブの方が直に伝わる。殺され役は子どものごっこ遊びのように最後には生き返る。当たり前だけど。
ジェットコースター嫌い、気持ち悪い、訳の分からない笑いは嫌い、ごっこ遊びかい、そういう意見はそれでいい。
私はディズニーランドのビッグサンダーマウンテンくらいにしか乗れないし、お化け屋敷も絶対入らないくらいビビりだけど、トム・ブラウンのコースターには何回でも乗りたい。
TVではシュールすぎたりネタ以外のコメントが突然下ネタだったりだけど、舞台上の演目ではもっと違う視点で笑わせてくる。何しろジェットコースターに乗ってるから細かいところは気にならない、というか気にしていられない。
かと思うとラジオアプリのポッドキャストでは、布川さんが兄のようにみちおさんの恋愛相談に乗ってたり、ネタの事で大喧嘩してみちおさんが泣いたりで、「よかった、なんか普通に会話出来るじゃん」と意味のない安心感を抱く。
お気に入りのコースターがあるように、私も好きな演目が定まってきた。遊園地でのルーティンみたいに、お気に入りは何回体験しても楽しい。かと思うと全く設定が変わってみたり、着地点が見えないのが面白い。ライブの年間パスポートがもしあってお小遣いで買えるのなら、新しいバッグと靴を我慢しても買う。
2024年が出場挑戦権のラストイヤーだったそうでM-1は優勝を逃したけれど、次はコントの大会、キングオブコントに挑戦とか。“東京03”をはじめじわじわくる可笑しさもいいけど、トム・ブラウンのコントの一言めから高いテンション、そこからずっと上がっていく展開にはわくわくする。
2025年の単独ツアーはほぼ完売、追加公演も売り切れたそうだ。彼らの体力に、自分達らしい笑いに尽力する姿勢に感動する。
引き続き、親戚のおばちゃんのような気持ちで、笑いころげながら応援したいと思っている。
コースター『トム・ブラウン』 茶村 鈴香 @perumi
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