わかりました

こーいち

agree

 車の免許を手に入れてしばらくは、心霊スポット巡りばかりしていました。


 片道1時間圏内とかでも、探せばそれなりにある物で、昔武将が切腹した場所だとか、人死にがあったトンネルだとか、色々行きましたね。



 その日私たちは、山の中にある橋を見に行っていました。


 数年前にそこで自殺が相次いだらしく、何人も飛び降りているんだから霊も出るだろう、といった理由で心霊スポット認定されたのだと思います。


 夜の山道はそれなりにスリリングで、辿り着くまでが既に度胸試しみたいになっていました。助手席に座る友人は顔面蒼白でしたね。



 そんなこんなで辿り着いた心霊スポット。


 街灯の無い山中の橋ですから、まぁ雰囲気はありましたよ。


 橋の中ほどから身を乗り出して、谷底を見てみました。ライトで照らすと、かなりの高低差である事がわかります。ここから落ちたら助からないだろうと、ひと目で感じる程には。


 でも、所詮はただの橋ですから。


 今感じている恐怖は、あくまでも高さに対する恐怖であり、霊的な恐怖、忌避感は存在しない。


 そう考えていると、途端に興が醒めてしまいました。


 帰ろうか。


 友人にそう伝えると、彼は無言で頷きました。



 車に乗り込み、エンジンをかける。ヘッドライトをつけると、橋が照らされ、夜の闇の中にぼうっと浮かび上がります。


 支柱には、私たちと同様に肝試し目的で訪れたと思しきヤンキー達の落書きが残されていました。


「ゆうれい上等」

「かかってこいや」


“幽霊”という漢字が書けなかったのでしょうか。


 ぷっと噴き出す友人につられて、私も笑い出してしまいました。


 もうさっさと帰って、ファミレス行こうぜ。


 そう言ってハンドルに手を伸ばそうとした私の視界に、真っ赤な塗料で書かれた落書きが映り込みました。



「わ か り ま し た」



 それ以来、私も友人も、心霊スポットには行かなくなりました。

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